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ただ「みんな協力して頑張ろう!」というだけの話ではなく...。
Leo Lionni (1910-1999/享年89)
英語版['67年]/『スイミー―ちいさなかしこいさかなのはなし』〔'69年〕
1963年の原著出版のオランダ生まれの絵本作家 Leo Lionni (レオ・レオニ、1910-1999)の作品。
スイミー(Swimmy)は、赤い小さな魚の群れの中で1人(1匹?)だけ皆と異なる黒い色をした魚ですが、泳ぐ速さは仲間一番で、群れがマグロに襲われたときに1人助かる。そして、クラゲやイセエビに遭遇する試練に違いながらも仲間たちと再会し、そのときに、どうすれば大きな魚に対抗できるかを考えつく―。
松岡正剛氏に言わせると、この物語の下敷きにはゲシュタルト・オーガニズムという考え方(形をもったものたちが集まって、それらが別な形や大きな形になったとき、そこに新たに有機的な意味が働く)があって、さらに、この「スイミー」の世界観には、動物生態学で言えば、群生の野生動物が個々の意識の中に常に群れと体感的に共振しているような感覚につながるものがあるのではと...。
やや難しい解釈ですが、スイミーが「黒い目」の役割を担う点などは、確かに、ただ「みんな協力して頑張ろう!」というだけの話ではなく、認知論的な視点が織り込まれている?(言われてみてナルホドという感じでですが)。
作者のレオ・レオニは、アムステルダム生まれでイタリアに住んでいましたが、ムッソリーニ体制下でユダヤ系とみなされて米国に亡命し、グラフィックデザイナー、アートディレクターとして長く活躍、絵本作家としてのスタートは49歳とむしろ遅く、最初の作品『あおくんときいろちゃん』(Little Blue and Little Yellow '59年発表)は、孫をあやすために描いたそうですが、デザイナーらしい色使いです。
コラージュっぽい作品も多くありますが、印象派絵画風の水彩のものもあり、. 特にこの『スイミー』は水彩の絵が美しく、また、日本人に好まれそうな気がします(印象派と言うより水墨画のカラー版みたいな感じ)。
「にじいろの ゼリーのような くらげ」「すいちゅうブルドーザーみたいな いせえび」
『はらぺこあおむし』の絵本作家エリック・カールに、最初にグラフィックデザイナーとしての仕事を紹介したのもレオ・レオニだそうで、所謂"デザイナーつながり"です。日本の広告業界などにも、いつか絵本を出したいというデザイナーは多くいると思いますが、1人でも多くの人のそうした夢が叶えばよいと思います。
本作の日本での初版は'69年で、手元にある2003年版は第79刷。寿命の長さは、中途半端な文学賞受賞作品の比ではないように思います。
《読書MEMO》
●映画「万引き家族」と『スイミー』
是枝裕和監督が第71回カンヌ国際映画祭で最高賞となるパルムドールを受賞した「万引き家族」('18年)に子どもが大人(リリー・フランキー)に『スイミー』の内容を話す場面がある。是枝監督によれば、撮影前に児童虐待の保護施設を訪れたことがあり、学校から帰って来た女の子に「今、何勉強してるの?」と尋ねると、女の子がランドセルから国語の教科書を取り出し、レオ・レオニの「スイミー」を朗読し始め、施設職員から「みんな忙しいんだから」とやんわり注意されても気にも留めず、結局は最後まで読み切ってしまい、「僕たちがみんなで拍手をしたら、すごくうれしそうに笑った。この子はきっと、今は離れて暮らしている親に聞かせたいんじゃないか。その子の朗読をしている顔が頭から離れなくて、今回の映画の中で少年が教科書を読むシーンを書きました」との秘話を明かしている。(マイナビニューズ)