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〈生と時間〉、〈死と生命のつながり〉。奥が深く、不思議な読後感。
『川はながれる』 岩波書店 〔'78年〕
"The Little River" Ann Rand Published by Harcourt, Brace & Company, 1959
1959年原著出版(原題は"The little river")の アメリカの絵本作家Ann Rand (アン・ランド)の作品で、'78年に邦訳出版後、いったん絶版になりましたが、「岩波の子どもの本」50周年記念で復刊した本です。
Rand, Ann; (illustrator) Rojankovsky, Feodor, Littlehampton Book Services Ltd; New版
アン・ランドの夫は世界的なデザイナーのポール・ランドで、夫婦の共著も多くありますが、この本は、絵の方は、彼女と同じロシア生まれの画家 Feodor Rojankovsky (フョードル(もしくはフェードル、フィオドル)・ロジャンコフスキー)が画いています。
川はどのように流れ何処へ行くのかを、そのことを知りたいと思っている子どもたちに語るというかたちで、森の中で生まれた「小さい川」を主人公に、海へ辿り着くまでの自然とのふれあいを、ロジャンコフスキーの生き生きとした絵で描いています(この人の動物画は天下一品)。
「小さい川」は何処へ流れて行けばいいのかわからず、いろんな動物たちに行き先を尋ね、湖へ出たり町を抜けたりし、野原では水鳥たちに挨拶したり牛に水をやりながら進むうちに、やがて3日後にきらきら輝く海が見えてくる―。
その時「小さい川」は、このまま海に出ると自分はどうなるのか不安になりますが、海辺のカモメが「しんまいの川」に教えます。川は太陽や空気みたいなもので、同じときに、何処にでもいることができるのさ、と。
「小さな川」は、これまで旅してきた何処にでも「自分」がいて、自分は森と海を行き来できるのだと悟ると明るい気持ちになる―。
「川の一生」になぞらえて「人間の一生」を語っているともとれ、〈生と時間〉、〈死と生命のつながり〉といった哲学的テーマに触れているようにも思えます。
4、5歳以上向けだそうですが、この話では、「小さい川」が河口まで辿り着いても「小さい川」のままであり、そこで短い一生を終えることになっているため、見方によっては「子どもの死」というものを想起することもできるのではないでしょうか。
奥が深そうで、ちょっと不思議な読後感のある絵本です。