【690】 ○ 内田 春菊 『私たちは繁殖している (1994/05 ぶんか社・Bunka comics) ★★★★

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赤ん坊に対する素直な驚き、既成概念にとらわれない子育てぶり。

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私たちは繁殖している (Bunka comics)』 〔'94年〕

 1994(平成6)年・第4回「Bunkamuraドゥマゴ文学賞」受賞作(自伝的小説『ファザーファッカー』と併せての受賞。この年の選者は文化人類学者の中沢新一氏)。

 '94(平成6)年にシリーズの第1巻が刊行され、その後文庫化もされたもので、作者・内田春菊氏と思しめき主人公の出産・子育て奮闘記であり、赤ん坊という生き物に対する驚きの気持ちなどが素直に表現されていて非常に楽しめたし、同じ立場にある女性にとって参考にも励みにもなるではと思いました。

 特に、既成概念にとらわれない子育てぶりは、仕事を持つ女性を勇気づけると思います。
 確かに、一般育児書に書いてあるようなことをすべて働きながらやろうとしても無理で、暗に仕事をやめろと言っているようなものかもしれず、本書はそうしたものへの逞しいアンチテーゼになっていると思えました。

 シリーズの4巻まで単行本で"熟読"しましたが、巻が変わるとパートナーも変わっていたり、流産あり子宮外妊娠ありで、ホントにこの人及びその周辺にはいろいろなことが起こるなあと。

 前年('93年)刊行の小説『ファザーファッカー』は直木賞候補に、さらに『キミオ』で芥川賞候補にもなっているから、やはり"才人"なのでしょう。
 本書(第1巻)は『ファザーファッカー』と抱き合わせで「Bunkamuraドゥマゴ文学賞」を受賞しましたが(その年の選考委員は中沢新一氏ただ1人、この賞は毎年選行委員が変わるシステム)、個人的には、星4つの評価は第4巻ぐらいまでかな、という感じ。
 5巻、6巻と読み進むにつれ、前夫や親戚に対する悪口など、他者に対する異価値許容性の無さが目立ってきて残念です。

 『ファザーファッカー』に書かれていることに因を求めるわけではないですが、著者自身の性格に大きな欠損部分があるようにも思えてくるのが少し哀しい。
 しかし見方を変えれば、彼女は自分自身のトラウマと常に格闘し、新しい家族像というものを模索しているともとれます。

 【2000年文庫化[角川文庫(『私たちは繁殖している イエロー』)]】

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