【666】 ○ ジョルジュ・ベルナノス (天羽 均:訳) 『少女ムーシェット (1971/04 晶文社) ★★★★

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自殺することが救いとなり得るかという究極の問いかけ。ブレッソンの映画化作品がいい。

少女ムーシェット 単行本.jpg少女ムーシェット.jpg 『少女ムーシエット (1971年)』晶文社 悪魔の陽のもとに.jpg悪魔の陽のもとに』春秋社〔'99年新装版〕

 1926年に発表されたフランスのカトリック作家ジョルジュ・ベルナノス(1888‐1948)の『悪魔の陽の下に』の第1部にあたる「少女ムーシェット」を元に、作者自身が単独の物語として翻案したもので、病気の母、乱暴な父のいる貧しい家庭で、同年代からも侮蔑され、身勝手な大人たちからは弄ばれ、生の暗闇の中で喘ぐ孤独な少女を描いたものです。

 すべてに絶望した少女は最後に自殺しますが、カトリックは自殺を容認しないはずで、カトリック作家がこうした作品を書いていること自体がある意味驚きと言えるかもしれません。
 しかし、その少女が死に至るまでの状況は、仮に自分がキリスト者であれば、果たして神はいるのかと問いたくなるような絶望的なもので、一方で彼女の自死の部分の描写には不思議な清澄感があり、救いとは何かという宗教的な問いかけを、キリスト者であるなしに関わらず読者に投げかけてくる作品です。

少女ムシェット2.jpg 本書を読んだきっかけは、ロベール・ブレッソン(1901‐1999)監督の映画化作品少女ムシェット」('67年)を観たためで、この映画化作品は、原作の本題である、「死」は14歳の少女にとって唯一の救いであったと言えるのでないかという問いを、観る者に切実に突きつけてきます。

ロベール・ブレッソン (原作:ジョルジュ・ベルナノス) 「少女ムシェット」 (67年/仏) (1974/09 エキプ・ド・シネマ) ★★★★★

 『少女ムーシェット』のベースになってる『悪魔の陽の下に』におけるムーシェットの人物像は、本書におけるそれよりも蠱惑的で、男をたぶらかしては逆に捨てられ、悪に手を染める16歳の少女として描かれていますが、最後は罪の意識に目覚めて自殺するといったもので、3部構成の第2部はまるでベルイマン映画のような神父と悪魔の闘いが、第3部ではまるでカール・テオドア・ドライヤーの映画のような奇跡が描かれています。
 因みにこの「悪魔の陽の下に」も映画化されていて('87年)、カンヌ映画祭のパルム・ドールを獲っています。

 ロベール・ブレッソンも凄い監督ですが、ジョルジュ・ベルナノスというのも凄い。但し、個人的には、先に映画を観てロベール・ブレッソンのに凄さに圧倒されてしまった面があります。

 【『少女ムーシェット』...1971年単行本〔昌文社〕/『悪魔の陽の下に』...1954年単行本〔新潮社〕(『現代フランス文学叢書』)・1981年単行本〔国書刊行会(『世界幻想文学大系11』)〕・1989年単行本・1999年新装版〔春秋社(『悪魔の陽のもとに』)〕/「新ムーシェット物語」...1977年全集〔春秋社(『ジョルジュ・ベルナノス著作集2』)〕】

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