【665】 ◎ ウィリアム・フォークナー (加島祥造:訳) 『八月の光 (1967/08 新潮文庫)(黒原敏行:訳)(2018/05 光文社古典新訳文庫)》 ★★★★★

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字縄を綯うが如き構成と強烈なキャラクター群。「第1の主人公」は〈ジョー・クリスマス〉か〈リーナ・グローヴ〉か?

Light in August William Faulkner.jpg八月の光.jpg 八月の光2.bmp  William Faulkner .jpg 加島祥造.jpg
八月の光』新潮文庫 〔旧版/新装版〕   W.Faulkner(1897-1962/享年64)/加島祥造(1923-2015/享年92
"Light in August: The Corrected Text (Vintage International)"

 1932年発表のアメリカの作家ウィリアム・フォークナー(1897‐1962)の代表作の1つで、彼がよく自らの作品に用いたアメリカ南部の架空の町ジェファスンを舞台に、その地で起きる1週間の出来事を、男女2人の主人公を交互に登場さLight in August.jpgせて字縄を綯うが如く繋いでいきますが、回想場面で時間が何回も戻るなど構成はかなり複雑で、ミステリ的要素もあります。

 〈ジョー・クリスマス〉という名の第1の主人公―、自らを"呪われた"黒人の血が混じった白人だと信じる殺人逃亡犯の男と、もう1人の主人公で、自分を妊娠させた男を探す旅の過程でこの町を通過する〈リーナ・グローヴ〉という楽天家でお腹の大きな娘は、最後まで交錯することがなく、その物語構成に、「えっ、ミステリとしての終らせ方はしないのだ」という新鮮味をまず感じました。
Light in August is a 1932 novel by William Faulkner.

フォークナー『八月の光』光文社古典新訳文庫.jpg しかし、そもそも〈ジョー・クリスマス〉がなぜ殺人を犯したのか、そのこと自体何の説明もされておらず、彼は雑誌を読んでいる間に殺人を思いたち、まぶしい太陽の光を目に受けてそれを決行する...。そして、そのために彼は住民に追い詰められリンチによって殺されることになる(これはカミュの『異邦人』か?と思ってしまう)。

 一方で、この〈ジョー・クリスマス〉という男が、差別と偏見の下で"救われることがない"ジャン・バルジャンみたいな描かれ方もされており、それでいてその心の闇には強く引き込まれるものがあり、個人的にはロベール・ブレッソン監督の映画「ラルジャン」の主人公などを想起しました(共に、自分の恩人を惨殺してしまうという点で共通している)。

 加えて〈ハイタワー〉という破戒牧師や〈バイロン・バンチ〉という中年男など強烈なキャラクターが登場し、これらの名前はしばらく忘れることができそうにありません。
八月の光 (光文社古典新訳文庫)(2018年再文庫化)
八月の光 光文社古典新訳文庫.jpg 個人的には〈ジョー・クリスマス〉を「第1の主人公」としましたが、これらに比べると、物語の半分を占める〈リーナ・グローヴ〉というのはインパクトが弱く、何故いるのかよく分りませんでした。ところが翻訳者の加島祥造氏は、〈リーナ・グローヴ〉こそ、この物語の「第1の主人公」と見ているようで、解説を読んで、今度は自分の中で文学的な新たなミステリが始まったという感じでした。

 今でも、自分の中では〈ジョー・クリスマス〉が「第1の主人公」なのですが、人間の心の闇を描いてアメリカ文学の中でも最高峰に位置する作品ではないかと思います。

【2016年再文庫化(諏訪部浩一:訳) [岩波文庫(上・下)]/2018年再文庫化(黒原敏行:訳) [光文社古典新訳文庫]】

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加島 祥造(詩人・翻訳家・タオイスト・墨彩画家)2015年12月25日老衰のため死去。92歳。

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