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女性教師と子どもたちの交流。傑作だからこそ批判の対象になる。
灰谷健次郎(1934‐2006/享年72)
『兎の眼 (理論社の大長編シリーズ)』〔'74年(イラスト・長谷川知子)〕『兎の眼 (新潮文庫)』〔'84年〕『兎の眼 (フォア文庫愛蔵版)』〔'04年(イラスト・長新太)〕
1974(昭和49)年1月刊行、1975(昭和50)年度・第8回「日本児童文学者協会新人賞」受賞作。
'06年11月に72歳で亡くなった児童文学作家・灰谷健次郎(はいたに・けんじろう)は、大阪の教育大学を卒業後17年間勤めた小学校教諭を退職してアジア各地を放浪したのちに、'74年にこの作品で児童文壇にデビューしました。
この作品は、新任女性教師の小谷先生と、その学校の生徒である塵芥処理所の子どもたちとの交流を描いたもので、'74(昭和49)年に理論社から刊行されましたが、この本ぐらい児童文学界で批評や議論の対象となった本は、他には数少ないのではないかと思われます。
この小説に対し、描かれている人物像が善悪パターン化されているのではないかとの批判もありますが、小谷先生自身が、夫との関係に問題を抱えるなど、旧来の物語にある天使のように完璧な教師としては描かれていないことからみても、必ずしもその批判は当たらないのではと思います。
そうすると今度は、児童文学にそうした夫との別れ話のようなことを持ち出すのはどうかという批判もあって、大人も子ども読む本というものの難しさを感じます。
自閉症でハエの飼育に固執する鉄三に対し、小谷先生やその生徒が理解を示すことで彼が自分を取り戻すプロセスには感動しました。
自閉症児は特定の事象に固執する傾向がありますが、その固執するものに対し誰かが共感を示すことが自閉症児に欠けているとされる〈社会性〉の習得・強化に良い影響を与えるというのは、ごく近年の自閉症研究の成果のはずで、30年以上前に書かれたこの物語では、そのことがすでにしっかり織り込まれているのは驚きと言えます。
ただ、鉄三が感謝状が貰えるような話にまでもっていく必要も無かったのでは...。ちょっとやりすぎ。
賞賛も批判もありますが、児童文学の領域を拡げた1冊であることに間違いないと思います。
【1974年単行本・1978年(理論社の大長編シリーズ )・1987年・1996年改版・2004年文庫愛蔵版〔理論社〕/1984年文庫化[新潮文庫]/1998年再文庫化[角川文庫]】