【651】 ○ 今江 祥智 『ぼんぼん―理論社の大長編シリ-ズ』 (1973/01 理論社) ★★★★

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戦時を生き抜いた少年の成長物語。"導師"的存在の〈佐脇老人〉が味がある。

ぼんぼん.jpg          ぼんぼん1.jpg 『ぼんぼん第1部』 今江祥智.jpg 今江祥智 氏(略歴下記)
ぼんぼん (理論社の大長編シリーズ―ぼんぼん)

 1973(昭和48)年1月刊行、1974(昭和49)年度・第14回「日本児童文学者協会賞」受賞作で、太平洋戦争とその後の時代を生き抜いた少年とその家族を描いた著者の自伝的作品の第1部であり、本書では戦争直前から終戦までを辿っています。

 主人公の小学校4年生の洋は、タイトル通り、関西の比較的裕福な家庭の子ですが、戦争直前に父親を病気で失うなどの辛い体験もします。
 戦時下における家族や学校生活の日常が柔らかい関西弁の会話で描かれていて、小学生の目で見た〈戦争〉というものが、オヤツなどの生活面の変化や、兄や学校の先生など大人たちの態度の変化を通して、子どもならではの感性に沿ってよく描かれています。

 父のいない母子を助けるのが、家族に恩義があるという佐脇さんという元ヤクザの老人で、この人が洋の良き導き手になりますが、気骨ある反戦老人でありながら、思春期の入り口にある洋に様々な手ほどきをしたりして、なかなか味があります。
 全体を通して洋の成長物語として読める本書の中では、この〈佐脇老人〉の"導師"的存在が大きな比重を占めているように思えます(この物語は第4部まで続編があり、第4部では洋は成人して教師になっています)。

わが街角 早乙女.jpg 以前に読んだ同じ戦争児童文学というべきものに、早乙女勝元氏の『わが街角』('73年/新潮社(全5巻)、'86年/新潮文庫(上・中・下)、'05年/草の根出版会〔『小説東京大空襲(第1巻・第2巻-わが街角(上・下)』)があり、こちらは東京の下町を舞台にした早乙女氏の自伝的大河小説で(ボリューム的には中高生~大人向けか)、作者が1945年3月に12歳で経験した「東京大空襲」が物語のクライマックスになっていますが、『ぼんぼん』の方は、その3日後の「大阪空襲」が物語の頂点になっています。
わが街角〈下〉 (新潮文庫)

 因みに、早乙女勝元氏も今江祥智氏も、同じ1932(昭和7)年生まれです。

【1973年単行本・1982年改版〔『ぼんぼん第1部』―理論社の大長編シリ-ズ〕・1995年単行本〔理論社〕/1987年文庫化[新潮文庫]/2010年再文庫化[岩波少年文庫]】

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今江 祥智(いまえ・よしとも):
1932年大阪市に生まれる。同志社大学文学部卒業。童話や小説をはじめ、翻訳や評論の仕事も多い。'91年までの作品は「今江祥智の本」全37巻と「今江祥智童話館」全17巻(理論社)にまとめられているほか、「マイ・ディア・シンサク」(新潮社)「そらまめうでてさてそこで」(文渓堂)「日なたぼっこねこ」(理論社)「まんじゅうざむらい」(解放出版社)「帽子の運命」(原生林)翻訳「パプーリとフェデリコ三部作」(バンサン、ブックローン)四部作をまとめた「ぽんぽん全1冊」(理論社)評論集「幸福の擁護」(みすず書房)などがある。野間児童文学賞、路傍の石文学賞、小学館児童出版文化賞などを受賞。

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今江 祥智(いまえ よしとも、1932年1月15日 - 2015年3月20日)
2015年3月20日、肝臓がんで死去、83歳。

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