【645】 ○ 志賀 直哉 『小僧の神様・城の崎にて』 (1968/07 新潮文庫) 《『小僧の神様 他十篇』 (1928/08 岩波文庫)》 ★★★★ (◎ 「小僧の神様」―『小僧の神様・城の崎にて』 (1968/07 新潮文庫)★★★★☆)

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「小僧の神様」が好き。「小説の神様」と言うより「文体の神様」。

『小僧の神様・城の崎にて』.JPG『小僧の神様・城の崎にて』.jpg 小僧の神様(岩波文庫).jpg 城の崎にて (1968年) (角川文庫).jpg 小僧の神様・城の崎にて 角川文庫.jpg
小僧の神様・城の崎にて(新潮文庫)』(カバー:熊谷守一)『小僧の神様―他十篇 (岩波文庫)』『城の崎にて (1968年) (角川文庫)』『城の崎にて・小僧の神様 (角川文庫)

小僧の神様.jpg 1920(大正9)年発表の表題作「小僧の神様」は、志賀直哉(1883‐1971)が「小説の神様」と呼ばれる一因になった作品ですが、この人は乃木将軍の殉死を愚かな行為だと批判したり、日本語廃止・フランス語採用論を唱えたりもした人で、これだけをとってもその賛否分かれるのではないかと思います。
 ただし、「小説の神様」と呼ばれた"事実"は、この作家の作品が、今の時代に(教科書以外で)どの程度読まれているかということとは別に、"評価"としては長く残っていくのだろうと思います。
 実際、芥川賞作家などにも志賀作品を激賛する人は多く、芥川龍之介も言ったように「志賀さんのように書きたくても、なかなか書けない」ということなのでしょうか。
新潮カセット&CD 「小僧の神様」(「城の崎にて」「好人物の夫婦」併録)

 「小僧の神様」は、鮨屋の評判を聞いてその店の鮨を喰ってみたいと夢想する小僧の身に起きた出来事を描いた、読みやすくて味のある傑作で、読者の中には"隠れた偽善性"を嫌うムキもありますが、個人的にはこのちょっと童話的な雰囲気が好きです。

 文章に無駄が無いという作家の特質がよく表れた作品ですが、終わり方なども変則的で(少なくとも小説の"典型"ではない)、これを以って「小説の神様」というのはどうかという気もします(小説の支配者(「神」)は作者である、と言っているようにもとれてしまう終わり方)。この作品を通して作者を「小説の神様」と呼んだ背景には、タイトルとの語呂合わせ的要素もあったかと思いますが、強いて言えば、「文体の神様」と言った方が、まだ当てはまるのでは。何れにせよ、傑作と言うか、大上段に構えたところがなく、ただただ「うまいなあ」と思わせる作品だと思います。

 その前に発表された「城の崎にて」は、こちらも、谷崎潤一郎が「文章読本」の中で、その文体の無駄の無さを絶賛したことで知られています。

 電車事故で怪我して湯治中の「自分」の、小動物の生死に対する感応が淡々と描かれていて、「深い」と言うより「わかるような」という感じでしたが、一つ間違えれば今頃は堅い顔して土の中に寝ているところだったというような主人公のイメージの抱き方にも、ごく日本的な死生観を感じました。  

赤西蠣太ビデオ.jpg 新潮文庫版は中期の作品18編を選んで執筆順に収めていて(この載せ方はいい)、日記風、散文風のものから、作者唯一の時代物でありながら映画にもなった「赤西蠣太」のようなストーリー性の強いものまで、〈私小説〉に限定されず幅があるなあという感じで、作風も、軽妙というより通俗的ではないかと思われるものさえあります(ただし、"簡潔な文体"という点では、全作品ほぼ一貫している)。

 芥川龍之介も、谷崎潤一郎との芸術論争(〈私小説〉論争?)の際に志賀の作風を褒め称えていますが、論争自体は〈物語派〉の谷崎の方が優勢だったかも。ただし、現代日本文学においても〈私小説〉は強いと言うか、純文学イコール私小説みたいな感じもあります(それがすべて志賀のせいではないでしょうが)。

 【1928年文庫化・1947年・2002年改版[岩波文庫(『小僧の神様 他十篇』)]/1948年文庫化[新潮文庫(『城の崎にて』)]/1954年再小僧の神様(岩波文庫).jpg城の崎にて・小僧の神様 (角川文庫).jpg文庫化[角川文庫(『城の崎にて・小僧の神様』)]/1968年再文庫化(改版)[角川文庫(『城の崎にて』)]/1968年再文庫化・1985年改版・2005年改版[新潮文庫(『小僧の神様・城の崎にて』)]/1992年再文庫化[集英社文庫(『清兵衛と瓢箪・小僧の神様』)]/2009年再文庫化[岩波ワイド文庫(『小僧I城の崎にて.jpgの神様―他十編』)]/2012年再文庫化[角川文庫(『城の崎にて・小僧の神様』)]】

『城の崎にて・小僧の神様』 (1954/03 角川文庫)

『小僧の神様 他十篇』 (1928年文庫化・1947年改版・2002/10 岩波文庫)(「城の崎にて」「赤西蛎太」など所収)

《読書MEMO》
●「城の崎にて」...1917(大正6)年発表 ★★★★
●「赤西蠣太」...1917(大正6)年発表 ★★★☆
●「小僧の神様」...1920(大正9)年発表 ★★★★☆

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