【643】 ◎ 小川 未明 「金の輪」―『小川未明 初夏の空で笑う女(日本幻想文学集成13)』 (1992/08 国書刊行会) 《小川未明童話集 (1961/11 新潮文庫)》 ★★★★☆

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たった4ページの掌編「金の輪」の美しさと情感に見る、作者の亡き子への思い。
『小川未明童話集』3.jpg『小川未明童話集』.JPG 日本幻想文学集成13・小川未明.jpg  小川未明童話集 (岩波文庫)200_.jpg
小川未明童話集 (新潮文庫)』['51年初版/'81年改版]カバー絵:安野光雅/『小川未明 初夏の空で笑う女 (日本幻想文学集成)』['92年]/『小川未明童話集 (岩波文庫)』['96年]

 1919(大正8)年発表の小川未明(1882‐1961)の僅か4ページの掌編「金の輪」は、実に不思議な印象を残す作品です。

 長く病に臥していた太郎は、ようやく床を出られるようになったが、友達もおらず、1人しょんぼり家先に立っていた。太郎はある日、往来を2つの「金の輪」を重ねて転がして遊ぶ見知らぬ少年を見かけ、少年は太郎の方を見て微笑む。次の日もまた同じ「金の輪」を転がす少年を見かけ、彼はまた太郎を見て懐かしそうに微笑む。太郎はその夜、少年と友達になり「金の輪」を1つ分けてもらって、いつまでも一緒にそれを転がして遊ぶ夢を見る。そして結末1行―。その唐突さにも関わらず、なぜか心に滲みる美しさと郷愁にも似た情感を漂わせた作品です。

子どもの宇宙.jpg 心理学者の河合隼雄氏は、7歳の死は薄幸だが、一方で死は太郎にとって素晴らしいものであり、太郎の7歳の死は、他人の70歳の死に匹敵する重みを持つと『子どもの宇宙』('87年/岩波新書)の中で書いています。しかし自分としては、この作品は、作者の亡くなったわが子へのレクイエムのように思われ、生き残った側の切ない思い入れが「創作」に昇華したものであると感じずにはおれません。

小川 未明 (おがわ みめい) 1982-1961.jpg 小川未明(1882‐1961)は20代終わりから30代の時だけ旺盛な創作活動をし、その業績に対して1945(昭和20)年に第5回「野間文芸賞」が贈られていますが、児童文学界の重鎮的存在で在りながら、昭和以降ほとんど新作は発表していません。また、宮沢賢治の作品が「大人の童話」と言われるのと対照的に、過去の作品群の作風を"子ども向けのヒューマニズム"と揶揄された時期もあります。

 本書には、代表作「赤いろうそくと人魚」など20数編が収められていますが、海の向こうから来た漂泊者を村人が冷たくあしらったところ、村が廃れてしまうというようなパターンのお話が幾つかあり、勧善懲悪と言えば勧善懲悪、しかしその"懲悪"の度合いは、童話の教育的効果としては異質であり、怨念的であったり神話的であったりします。

小川 未明 (1982-1961/享年79)

 しかし本全集のように、幻想文学という切り口でその作品を捉えると(この全集には、童話作家ではもう1人宮沢賢治も入っているが)、この人の作品の場合よりシックリくるような気がします。

【「光の輪」は『小川未明童話集』('51年/新潮文庫)、『小川未明童話集』('96年/岩波文庫)のほか以下などにも所収】

未明童話-心の芽そのほか.jpg 新日本少年少女文学全集16-小川未明集.jpg 小川未明童話集2.jpg 小川未明童話集 心に残るロングセラー名作10話.jpg
【『未明童話-心の芽そのほか』 文寿堂出版 ['48年]/『新日本少年少女文学全集16-小川未明集』 ポプラ社 ['65年]/『小川未明童話集』 旺文社文庫 ['74年]/『小川未明童話集―心に残るロングセラー名作10話』 世界文化社 ['04年]】

《読書MEMO》
●「金の輪」...1919(大正8)年発表 ★★★★☆

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