【642】 ○ 内田 百閒 『冥途 (1994/01 福武文庫) 《 内田 百閒 『冥土 (1934/01 三笠書房)》 ★★★★

「●近代日本文学 (-1948)」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【643】 小川 未明 「金の輪
「○近代日本文学 【発表・刊行順】」の インデックッスへ

「夢十夜」の系譜を引くアンソロジー。面白さで言えば「件(くだん)」が一番。

冥土(福武文庫).jpg  冥途・旅順入城式.jpg  冥途.jpg 冥途―内田百けん集成〈3〉 ちくま文庫.jpg  内田 百閒.jpg 内田 百閒
冥途 (福武文庫)』/『冥途・旅順入城式 (岩波文庫)』/『冥途』〔'02年/パロル舎/画:金井田 英津子〕/『冥途―内田百けん集成〈3〉 ちくま文庫』〔'02年〕
『冥途』 三笠書房版 ['34年初版]/ 『冥途』 芝書店版 ['49年初版]
冥途 三笠書房.jpg内田百閒『冥途』 昭和24年10月 芝書店.jpg 1921(大正10)年発表、翌年単行本刊行の『冥途』は、内田百閒(1989‐1971)が最初に発表したアンソロジーで、「冥途」「山東京伝」「花火」「件」「土手」「豹」など16篇の短篇からなりますが(福武文庫版は18篇所収)、何れも作者自身の見た夢をモチーフにしたと思われ、師匠であった漱石の「夢十夜」の系譜を引くものです。
 自分が読んだ福武文庫版('94年)は現在は絶版となり、短篇集2集を収めた岩波文庫版(『冥途・旅順入城式』('90年))の前半部分が福武文庫版と同じラインアップとなっています。

 表題作の「冥途」は、ビードロの記憶に託されたノスタルジックな抒情が良かったですが、面白さで言えば「件(くだん)」が一番だと思いました。
 牛に似た化け物「件」に変身してしまった「私」は、人々に予言をした後3日後に死ぬ運命にあるという―、これはカフカかと思わせるような不条理な設定ですが、村人にせっつかれても肝心の予言が思い浮かばないといところから、土俗民話的な雰囲気にユーモアと哀感の入り混じったものになっていきます。

 こうしたシュールな雰囲気がわりと楽しく、自分が江戸時代の戯作者・山東京伝の書生になっていて、そこへ訪れた客の姿が蟻だったとか(「山東京伝」)、自分の先生が馬の鍼灸師で、先生の弟が実は馬だったとかとか(「尽頭子」)、そういうかなりスラップスティックなものもあれば、女の子が老婆になる話(「柳藻」)や狐に化かされる話(「短夜」)など、怪談として十分に完結しているものもあり、「創作」の入れ方の度合いが作品ごとに異なる気もしました。

 多分、夢を「正確に」書き写すという行為の中に、イメージの断片を繋ぎ合わせていくうえで否応無く「創作」的要素が入るということを作者はよくわかっていて、そうなれば夢を書き写すという行為そのものが創作となるわけで、どこまで「創作」を入れるかというその辺りの線引きに厳密さは求めず、夢で得た鮮烈なイメージを損なわないまま言葉にどう置き換えるかといことに専念したのでは。
 夢が深層心理の表れであるとしても、そこから一義的に意味が読めてしまうような内容にはしたくないという方針だったのではないかという気がするですが、どうなのでしょうか。

 【1939年文庫化[新潮文庫(『冥途・旅順入城式』)]/1981年再文庫化[旺文社文庫(『冥途・旅順入城式』)]/1990年再文庫化[岩波文庫(『冥途・旅順入城式』)]/1991年再文庫化[ちくま文庫(『ちくま日本文学全集』)]/1994年再文庫化[福武文庫(『冥途』)]/2002年再文庫化[ちくま文庫(『冥途』)]

《読書MEMO》
●「冥途」「山東京伝」「花火」「件」「土手」「豹」...1921(大正10)年発表(翌年、単行本)

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1