【626】 ○ 宮城谷 昌光 『管仲 (上・下)』 (2003/04 角川書店) ★★★★

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2700年前の友情物語。才能を見抜く力、人を信じる力の重要さもテーマと言えるかも。

管仲上.jpg 管仲下.jpg  『管仲 上』 『管仲 下』 (2003/04 角川書店)
管鮑の交わり.jpg
 中国の春秋時代の最初の覇者となった斉の桓公に仕えた名宰相・管仲と、彼を桓公に補佐役として推挙した鮑叔(ほうしゅく)の、"管鮑の交わり"として知られる友情を描いた作品(「2700年前の友情」ということになる)。

 不遇時代を送っていた管仲は、幼馴染みの鮑叔に招かれ斉の国に来ますが、斉の襄公は血縁の妹・文姜と交わる一方、誅殺と暴虐を重ねるなど非道の圧政者で、その弟の公子糾や公子小白は、誅殺を逃れるために亡命、やがて襄公は公孫無知に暗殺され、その公孫無知もまたすぐに暗殺される事態となって、公子糾に仕えていた管仲と公子小白に仕えていた鮑叔は、君主の座をめぐる相続争いで対峙しなければならなくなる―。

 管仲は公子小白に弓矢を引きますが、その矢は小白の帯鉤((ベルトのバックル)に当たって小白は助かり、やがて公子糾を破り斉の桓公となった小白が、鮑叔の進言により敵方だった管仲を罰せずに宰相として起用した結果、その政治・経済・軍事面での天才ぶりに助けられて斉の国を復興、後に春秋五覇と言われる覇者の最初の1人となったのは有名な話。
 物語は、謎の多い管仲の前半生を鮑叔との運命的な出会いから語り起こしていて、共に商売したり遊学したりしつつ双方絆を深め、お互いを高めあっていく様が爽やかです。

 管仲が過去の悲恋体験から心に闇を抱えた人物として描かれている一方で、鮑叔が早くから管仲の天才を見抜き、その能力がいつか発揮できるようにと、常に明るく鷹揚に管仲をバックアップしているのが印象的でした。
 鮑叔自身も、主人の小白の首府脱出行を完璧に遂行するなど、度量と才覚のある人物で、一端の野心家なら自分が宰相になろうとするところですが、管仲の才能に絶大の信を置き、国治において彼は敵わないと思っている、この謙虚さが良く、むしろ管仲を通じて自分がやりたかった国づくりというものを十二分に実現したと言えるのではないでしょうか。

 一方で、公子糾のように管仲を傍に置きながらその才能の凄さがわからなかった人もいて、「友情」は確かにこの作品の主テーマですが、「才能を見抜く力」「人を信じる力」の重要さももう1つのテーマとなっている作品だと思います。

 【2006年文庫化[文春文庫(上・下)]】

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This page contains a single entry by wada published on 2007年5月 5日 20:39.

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【627】 ◎ 宮本 輝 「泥の河」―『螢川』 (1978/02 筑摩書房) ★★★★☆(△ 深作 欣二 「道頓堀川」 (1982/06 松竹) ★★★) is the next entry in this blog.

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