【613】 ○ 平岩 弓枝 『狐の嫁入り―御宿かわせみ』 (1983/01 文藝春秋) ★★★☆

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スケールの大きなからくりがミステリー気分を盛り上げる表題作。るいって生活臭さがないなあと。

狐の嫁入り.gif  『狐の嫁入り―御宿かわせみ (1983年)』 狐の嫁入り2.jpg 文庫旧版  狐の嫁入り3.jpg 『狐の嫁入り―御宿かわせみ〈6〉 (文春文庫)』 新装版 〔'04年〕

 江戸のはずれで、花嫁行列の駕籠が宙に浮き、青白い狐火が舞うという"狐の嫁入り"騒ぎが何度かあり、ついに本所でも目撃者が現れ。同心の畝源三郎、八丁堀与力の弟、神林東吾ら調査に乗り出す。一方、材木問屋の娘およねは金貸し検校の家へ嫁ぐことになっていた...。

 '82(昭和57)年から翌年にかけて発表された作品を集めたシリーズ第6作。
 表題作の「狐の嫁入り」のほかに、「師走の月」「迎春忍川」「梅一輪」「千鳥が啼いた」「子はかすがい」を収録していますが、中でも「狐の嫁入り」は、スケールの大きなからくりがミステリー気分を盛り上げます。
 この作品で使われている手は、シリーズでそう何回も使える手ではないけれど、いったんこの手を使うとなると、かなり自由な構想で描けるのでは(宮部みゆきもどこかで使っていましたね、この手を)。
 今で言えば「刑事事件」と言うより「民事」に近くて、"警察"がここまで介入していいのかなあというのもありますが、その辺りも時代物の自由さか。

  宿屋「かわせみ」の女主人るいを取り巻く登場人物のキャラクターも定着してきて、話ごとに登場する美女に東吾が気を惹かれ、それにるいがやきもきするのも予定調和の範囲内。
 作者はシリーズの連載を始めるにあたって、捕物帳と言うより、グランドホテル形式の物語を想定したとのことですが、昭和40年代のテレビドラマで「肝っ玉かあさん」(脚本:平岩弓枝、プロデューサーは「渡る世間は鬼ばかり」の石井ふく子)というのがありましたけれど、脇役の固め方とかには若干そうしたものを想起させる雰囲気も感じます。

 しかしながら、ホームドラマに"堕す"ことがないのは、るいと東吾の関係が世間を忍ぶものであるという設定によるところもあるでしょうが、女主人るいの生活感がきれいに(意図的に?)拭い去られているという部分も大きいのでは(るいが糠味噌つけたり襖替えしたいする場面は無いですよね)。
 いずれにせよ、読み始めるとハマるシリーズです。コレは。
 
 【1986年文庫化・2004年文庫新装版[文春文庫]】

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