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これから面白くなるところだったのに、「平成の2大散文家」唯一の共著になってしまった。
『リリー&ナンシーの小さなスナック』 文春文庫 (『小さなスナック』)
(ブックデザイン:坂本志保)
雑誌「クレア」に連載されたナンシー関の対談で、10年前から大月隆寛、町山広美氏を相手に続いて、リリー・フランキー氏が3人目の対談相手だったわけですが、これが一番面白いと言うか、かなりユルイ感じもありますが、将来に向けての可能性を秘めていたような気がします。
しかし、この対談の中で「10年後も間違い無く消しゴムを彫っている」と将来予測していたナンシーが、第24回対談の前日に急逝し('02年6月)、それまでの23回の対談を収めた本書が、リリー&ナンシーの唯一の共著になってしまいました。
文芸評論家の福田和也氏などは、この2人を「平成の2大散文家」と評しているぐらいで、対談もこれからもっと面白くなると思われたところだったから、残念。
それぞれの対談にテーマはあって無いようなものですが、いい感じの言葉のキャッチボールで、それぞれのイラストと版画が楽しめるのもいいです。
言葉の端々に双方の鋭い感性が窺える一方、ナンシー関が意外と率直にテレビドラマで泣いたりすることを告白していたり(泣いたイコール感動しているではないと言っていることが肝要ですが)、時にどこか自虐的であったりし、またリリー・フランキー氏に対して優しい先輩のように包容的でもあったりして、彼女の新たな一面を見た気がしました。
それだけに、末尾のリリー・フランキー氏の追悼文も哀しく、無念さを増します。
この追悼文には詳しく書かれていませんが、次の対談予定場所だった、ナンシー関の馴染みの焼肉店(ここの女性経営者とは経営者が屋台の時代からナンシー関は親しくしていて、亡くなる1週間前にも来ていた)をリリー・フランキー氏が訪れ、対談で出す予定だった料理を全部出すようママに頼み、お店の人たちと追悼会をしたそうです。
リリー・フランキー氏が亡くなった母親の思い出を綴った『東京タワー〜オカンとボクと、時々、オトン〜』('05年/扶桑社)でブレイクしたのは、ナンシー関の死の3年後で、母親を亡くしたたのは、この対談が始まる少し前だったのではないだろうか。
【2005年文庫化[文春文庫(『小さなスナック』)]】