【599】 ◎ 陳 舜臣 『小説十八史略 (全6巻)』 (1977/11 毎日新聞社) ★★★★★

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権謀術数を尽くす壮絶な人間ドラマの連続。神の不在と"過去の歴史への執着。

小説十八史略 1.jpg 小説十八史略 2.jpg 小説十八史略 3.jpg 小説十八史略 4.jpg 小説十八史略 5.jpg 小説十八史略 6.jpg 講談社文庫 (全6巻) 『中国五千年(上・下)』 
中国五千年 上.jpg中国五千年 下.jpg 再読しましたが、やはり読み出したら止まらないぐらい面白い!
 神話伝説の時代から元王朝まで網羅していて、単行本は全6巻2段組で1,500ページ以上とボリュームはありますが、同じ作者の『中国五千年(上・下)』('83年/平凡社)などと比べて小説仕立てなので読みやすく、テンポよく各年代を駆け抜けていく感じがあります。
毎日新聞社版 (全6巻)
陳 舜臣 『小説十八史略 (1)』.jpg十八史略.jpg 取り上げている故事の数も多いけれど、それらに連続感、"たたみかけ感"があり、飽きさせることがありません。 
 元本(十八史略)が紀伝体であるため皇帝など人物中心で書かれていて、「管鮑の仲」「宋襄の仁」「臥薪嘗胆」といった馴染みの故事成語を生んだ出来事なども最初から次々と出てくるので、親しみやすいかと思います。
 ただし、「管鮑の仲」のような"心温まる"話はむしろ珍しい方で、権力の座を巡って武将や宦官、親兄弟、外戚らが権謀術数の限りを尽くす、壮絶な人間ドラマの連続です。

 本来「王」とは天道を現世で執行する「天子」であったはずです。しかし、周王朝から春秋戦国時代の間のあまりに人間臭い権力抗争の中で、乱立する「王」の威光は無くなったのでしょう。〈人格神〉というものが根づかなかった中国の思想風土も、この時点で決定的づけられたという気がします。

 そこで秦の高祖(始皇帝)が新たに「王」の上にある絶対権力として「皇帝」を名乗ったわけですが、その「皇帝」さえも、これじゃあ結局おんなじと言う感じです。

 始皇帝も、漢の武帝も、あの唐の玄宗皇帝も、治世末期にはそれぞれ、不老長寿の薬を探させたり、迷信深くなって讒言の酷吏を重用したり、楊貴妃に溺れたりして悪政傾国を招き、晩節を汚しているし、宦官や外戚に操られる"バカ殿"皇帝も多く、奥さんに布団蒸しにされて殺されてしまった皇帝もいるから驚き呆れます。

小説十八史略 上.jpg小説十八史略下.jpg その治世を通しての名君は、唐の太祖・李世民ぐらいでしょうか。彼にしても兄弟を殺し、父を幽閉しているわけですが、生き延びるにはそれしかやりようがない状況だったわけで...。

 中国には王朝が「前王朝」の歴史を作成する歴史が清代まで2千年間あり、こうした過去の歴史に対する継続的な執着、重視は西洋や日本には無いものです。
「歴史を忘れない中国人」というものを感じさせる物語でもあります。
毎日新聞社 愛蔵版 (上・下)

 【1977年-83年単行本[毎日新聞社(全6巻)]/1987年ノベルズ版[毎日新聞社(全12巻)]/1992年文庫化[講談社文庫(全6巻)]/1996年単行本再刊(愛蔵版)[毎日新聞社(上・下)]/2000年単行本再刊[集英社(上・中・下)]】

《読書MEMO》
 「この作品のタイトルに、わざわざ『小説』の二文字を加えたのは、実は架空の人物を投入して、おもしろくしようと考えたからである。だが、『サンデー毎日』に連載をはじめて、私はすぐにその構想を放棄した。中国の歴史にはあらゆる意味でチャーミングな人物が犇めき合っており、架空の人物のはいるスキマがないからである。構想は放棄したけれども、「小説」の二字はあえて除かなかった。 小説を書く姿勢で、自由に筆をはこびたいとおもったからで、読者にもやはり小説のつもりで読んでいただきたい。ある人が私のこの種の作品を「史談」と呼んだ。うまいネーミングである。歴史を素材にして、史実や人物の解釈をするのは、こよなく楽しい作業であり、それでおおぜいの読者を得たことは作者冥利に尽きる。なぜ南宋の滅亡で筆をおいたのかとよく訊かれるが、答は簡単である。私がそのネームバリューを拝借した曹先之の『十八史略』が、南宋滅亡で終わっているからなのだ。」(講談社文庫版あとがきより)

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陳舜臣(作家)2015年1月21日朝、老衰のため神戸市内の病院で死去。90歳。

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