【582】 ○ 重松 清 『きみの友だち (2005/10 新潮社) ★★★★

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実は最初から大人向きの話。物語化を表明することで、「甘さ」に対し"断り書き"している?

重松 清 『きみの友だち』.jpgきみの友だち.jpg  映画『きみの友だち』.jpg
きみの友だち』['05年/新潮社] 2008年映画化(監督: 廣木隆一/出演:石橋杏奈・北浦愛・吉高由里子)
きみの友だち (新潮文庫)』['08年]
新潮文庫2009年限定カバー版
重松 清 『きみの友だち』.jpg 小学5年の恵美が松葉杖を手放せないのは、前年に交通事故に遭い左足の自由を失ったからで、事故の誘引となった級友たちに当り散らすうちに、友だちも失ってしまっていた。そんな恵美があるきっかけで、病弱のため入院生活の長かった由香という同級生と「友だち」になっていく―というのが第1話「あいあい傘」。

 第2話「ねじれの位置」は、恵美と少し年の離れた弟ブンちゃんが小学5年の時の話で、勉強も運動もクラス一番だった彼だったが、モトくんという転校生が来てからクラスのヒーローの座を脅かされるようになり、最初反目していた2人だが、やがて「友だち」になっていくという話。

 恵美とブンちゃんの姉弟を軸に、小学校高学年から中学にかけての2人とその級友を、「○○ちゃん、きみの話をしよう」というスタイルで10ばかり取り上げた連作短篇ですが、「友だちって何だろう」と考えさせられ、特に、第10話の「花いちもんめ」は、「生涯の友だちとは」というテーマにかかっていて泣けました。
 でも小説としては、第1話と第2話が、学級内の人間関係のダイナミズムや、少年少女の感受性と自意識をリアルに描いていて、それでいて読後感が爽やかで良くできていると思いました。

 概ねどの話も読後感は爽やかで、当事者(小中学生)が読むとしたら、スイートに仕上げ過ぎではという感じも若干はしましたが、「○○ちゃん、きみの話をしよう」というスタイルにつられて、児童文学を大人が読んでいるような気にさせられるけれども、実は最初から「大人向き」だったといことかも。
 むしろ大人の方が、「あの頃の友だちって何だったんだろう」というノスタルジックな思いで同化しやすいのではないかと...(過去の思い出は美化される?)。

 最後の第11話で、この一連の物語の語り手がどういった人物なのかが明かされ、それでかえってシラけた読者もいたかもしれませんが、ある種の入籠(いれこ)形式にすることで、「物語」化したものであることを表明しているように思え、それが「甘さ」に対する"中和装置"乃至は"断り書き"になっているという気がしました。
 
 【2008年文庫化[新潮文庫]】

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This page contains a single entry by wada published on 2006年11月23日 00:04.

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