「●か 河合 隼雄」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1006】 河合 隼雄 『「子どもの目」からの発想』
村上春樹との初対談、多田富雄との免疫論議などが興味深かった。
『こころの声を聴く―河合隼雄対話集 (新潮文庫)』 〔'97年〕
河合隼雄と作家や詩人、学者たち10人との対談集ですが、対談相手が安部公房、谷川俊太郎、白洲正子、遠藤周作、富岡多恵子、多田富雄、村上春樹など錚錚たる顔ぶれで、密度が濃く、また充分に楽しめるものでもありました。
両者どちらかの著作を取り上げて語り合っているものが多く、脚本家の山田太一とは『異人たちとの夏』('87年)、『遠くの声を捜して』('89年)などを取り上げファンタジーの可能性を論じ、安部公房とは、『カンガルー・ノート』('91年)を取り上げ「境界」について論じたりしていますが、河合氏の心理学者としての読み解きに作者の方が新たな気づきに至る部分もあり、なかなか面白かったです。
ただし、安部氏はこの対談のあと間もなく不帰の人となり、『カンガルー・ノート』は彼の遺作となったほか、本書刊行の翌年には遠藤周作・沢村貞子も(共に'96年没)、そして、対談の中で青山二郎に対する大岡昇平の嫉妬をさらりと暴いていていた白洲正子も'98年末に亡くなっており、淋しい気がするとともに、貴重な対談記録でもあると思いました。
村上春樹との対談は、'94年プリンストン大学にて公開の場で行われたかなり長めのものが収められていますが、これが両者の初顔合わせで、村上氏が独自の自我論を展開しているのに対し、河合氏はそれを精神分析の用語に置き換えていたりしており(このころの村上氏はユング心理学や精神分析などについてさほど造詣は無かったのではないか)、また村上氏が漱石の作品や自作の創作の秘密について語っているのは、河合氏ならずとも興味深いものです。
個人的に一番面白かったのは、『免疫の意味論』('93年)の著者・多田富雄との対談で、多田氏は、自己と非自己を識別するT細胞をつくる「胸腺」の仕組みや、細胞が自殺する「アポプトーシス」についてわかりやすく解説し、経済活動や言語も一種の生命とみなすべきではないかと言っていますが、河合氏はそれらを集合的無意識とのアナロジーにおいて解しているように思えました。
白洲正子氏も自らの随筆で、この対談〔初出は94年/雑誌「新潮」)を読んで極めて面白かったと書いていました(この時、白洲正子氏は84歳か。河合氏、多田氏とは「明恵」「能」つながりですが、それにしても凄い好奇心!)。
【1997年文庫化[新潮文庫]】
《読書MEMO》
●魂のリアリズム(山田太一)
●境界を越えた世界(安部公房)
●常識・智恵・こころ(谷川俊太郎)
●魂には形がある(白洲正子)
●老いる幸福(沢村貞子)
●「王の挽歌」の底を流れるもの(遠藤周作)
●自己・エイズ・男と女(多田富雄)
●「性別という神話」について―「往復書簡」富岡多恵子・河合隼雄
●現代の物語とは何か(村上春樹)
●子供の成長、そして本(毛利子来)
『こころの声を聴く―河合隼雄対話集』単行本
河合隼雄(心理学者、心理療法家)2007年7月19日、脳梗塞のため死去。79歳。