【567】 ○ 奥田 英朗 『空中ブランコ (2004/04 文藝春秋) ★★★☆

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突き抜けた面白さと言うよりは、安定感のある"癒し系"ユーモア小説。

空中ブランコ.jpg空中ブランコ』 単行本〔'04年〕 イン・ザ・プール.jpgイン・ザ・プール』('02年/文藝春秋)

 2004(平成16)年上半期・第131回「直木賞」受賞作。

 直木賞候補になった『イン・ザ・プール』('02年/文藝春秋)に続く"トンデモ精神科医"伊良部一郎のシリーズで、収録作品とそれぞれの「患者さん」は次のとおり。
 ◆「空中ブランコ」 ...空中ブランコが急に出来なくなったサーカス団員、
 ◆「ハリネズミ」 ...尖端恐怖症のやくざ、
 ◆「義父のヅラ」...義父のカツラをとりたい衝動に駆られる医学部講師、
 ◆「ホットコーナー」 ...一塁にうまく送球できなくなったプロ野球選手、
 ◆「女流作家」...本の題材探しに苦しみ心因性嘔吐症となった女流作家。

 面白いけれども、突き抜けた面白さと言うよりは、安定感のある"癒し系"ユーモア小説という感じがしました(実際、"癒し"という言葉が文中に何度か出てくる)。
 でも、患者の独白が主体であった『イン・ザ・プール』に比べ、患者の症状を"現象的"に丹念に描いていて、飽きさせず読ませるなあという感じ(5篇程度なら。10篇続けて読むとどうかなという気もしますが)。
 こういうストレス社会の現代病のようなものをユーモラスに描こうとする作家は結構いるのではないかと思うのですが、落とし処が意外と難しいのかも。
 
 本書に収められた話は何れも、予定調和と言ってしまえばそれまでですが、読後感が爽やかでその辺りも直木賞受賞に繋がったのではないでしょうか。
 「女流作家」の最後の看護婦マユミのセリフが良くてグッときましたが、同時にこのシリーズの1つの区切りのような気もしました(シリーズ自体はこれで終わりではありませんでしたが)。
 
 何れにせよ、権威ある文学賞ってユーモア小説に比較的辛く(筒井康隆や小林信彦も直木賞をとっていない)、そのことが小説だけでなく映画などでもそうしたジャンルの恒常的低調を招いているような気がし(結局、コメディ映画の本の書き手なども、三谷幸喜などの劇作家・脚本家が多い)、こうした作品が賞を取るのはいいことではないかと思った次第です。

 【2008年文庫化[文春文庫]】

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