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作者からの"耳打ち"され度の開きが、名探偵と読者との間で大き過ぎると面白くなくなる。
『乱鴉の島』['06年/新潮社] 『乱鴉の島 (講談社ノベルス)』
2007(平成19)年版「本格ミステリ・ベスト10」第1位作品。
推理作家・有栖川有栖と犯罪学者・火村英生が休養で訪れたある島は、手違いから目的地と異なる別の島だったことがわかるが、通称・烏島と呼ばれるその孤島には、隠遁している老詩人のもと彼をとりまく様々な人が集まっており、遂には謎のIT長者までヘリコプターで飛来する、そうした中、奇怪な殺人事件が起こり、さらには第2の殺人事件が―。
『マレー鉄道の謎』('02年/講談社ノベルズ)以来4年ぶりの"火村シリーズ"で、更にはハードカバー版ということで、内容に期待しましたが、所謂クローズド・サークルになっている「孤島ミステリー」で、『マレー鉄道の謎』と舞台背景は異なるものの、第1の殺人事件での疑わしき人物が第2の殺人事件の犠牲者として発見され、どちらの事件が先に起きたのかもよくわからないという進行が『マレー鉄道の謎』と同じではないかと...。同じでも落とし処の違いで大いに楽しめるはずですが、結構スケールダウンと言うか、こじんまりしてしまった感じでした。
作中に何だか推理小説論みたいなやりとりが多くて(これが帯にあるペダンティックということの1つなのか)、その中で「名探偵は作者にちょっとだけ読者より多く耳打ちされているだけだ」といった内容のクダリがありますが、本作においては読者との"耳打ち"され度の開きが大き過ぎるのではないでしょうか。
その名探偵こと火村助教授も、犯人の「動機」については作者から"耳打ち"されることなく、「状況証拠」のみで事件を解いていく...というのは、著者が「本格ミステリー」にこだわったためでしょうか。
老詩人のもとに人々が集まる理由にリアリティが乏しい気がしましたが(アガサ・クリスティの「そして誰もいなくなった」を模しているということについて読者との間に了解が成り立っているという前提か)、一方で、ふてぶてしく登場するIT長者"ヤッシー"というのが、何だかやけに(モデルが特定されそうなぐらい)リアリティがあって、これはこれで却って安直な感じがしてしまいました。
【2008年ノベルズ版[講談社]/2010年文庫化[新潮文庫]】