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太宰治の「親友交歓」を思い出した。心理小説か? SFか? 最後はやはり「安部公房」。
『人間そっくり (1967年)』早川書房 『人間そっくり』新潮文庫
新潮文庫(新装版)
「こんにちは火星人」というラジオ番組の脚本を書いていたある作家のもとに、彼のファンだという男が訪れ、自分は火星人であると名乗る。この男は自分が地球に来た経緯を作家に語るが、時として押し売りセールスマンのようにも振舞い、また時として狂人のような素振りも見せて作家を恐怖に陥れる。果たして彼は人間なのか火星人なのか、健常者なのか狂人なのか―。
『人間そっくり (ハヤカワ文庫JA)』['74年/ハヤカワ文庫JA]
前半から中盤にかけての両者の会話はテンポのいい心理小説として楽しめ、主人公が突然の変な来訪者に振り回されるという点で、太宰治の「親友交歓」を思い出しましたが、この作品も、軽妙な中にも作者の小説家としての筆力を感じました。
しかしながらし、もともとは'67年に早川書房の"日本SFシリーズ"として(新書サイズだった)、小松左京の「復活の日」や星新一の「夢魔の標的」、筒井康隆の「48億の妄想」と並んで刊行されもので、本書も話の流れとしてはSF風の結末です。
ただし、最後に人間存在の不確かさというものをしっかり浮き彫りにしていて、そこはやはり「安部公房」という感じでしょうか。
それにしても、電話ボックス(電話器)が"転送ステーション"だなんて、キアヌ・リーブス主演の映画「マトリックス」('99年/米)の先を行っていたような気がしました。
因みに、この『人間そっくり』は1959(昭和34)年に当時の中日テレビで原作者自身の脚本のもと単発ドラマ化されていて、作家を金子信雄、火星人を名乗る男を田中邦衛が演じたとのこと。どんな感じのドラマだったのでしょうか。
【1974年文庫化[ハヤカワ文庫]/1976年再文庫化[新潮文庫]】