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「●「芥川賞」受賞作」の インデックッスへ
遺棄され埋められた経験を持つ主人公。読後感は悪くないが、無難な起承転結に収まった?
『土の中の子供』 (2005/07 新潮社)
2005(平成17)年上半期・第133回「芥川賞」受賞作。
幼い頃に養父母に虐待され、遺棄されて土に埋められた経験を持つ主人公の青年は、わざと暴走族に袋叩きになる状況に身を置いたり、執拗に高い所から落ちるイメージに固執し、それを実行しようとしたりする―。
読み始めは『ハリガネムシ』や『蛇にピアス』を思い出し、「また"自虐"か」という感じも。芥川賞って何か選択式の「お題」でもあるのだろうか? まさか。
ただ読み進むと、文章が特に修飾的なわけではないけれど、均質の緊張感が維持されていて、AC(アダルトチルドレン)を素材とした通俗的センセーショナリズムの作為は感じられず、著者が真摯に主人公の内面世界を描こうとしているのが感じられました("純文学"感、あります)。
虐待を受けた子が大人になったときの心象風景や自らの存在の希薄感がどのようなものなのか、自分に本当のところはわかりませんが、一般に言う「高い所の恐怖」というのは、サルトル流に言えば、「高い所に上ると自ら飛び降りるのではないかという不安」であり、主人公の志向も、「落ちる」こと自体より、それを「確認する」ことに重きがあるような気がしました。
ただし、ここまで心象を「言語化」しているということは、既に「対象化」しているということでもあり、リアルタイムな感じがあまりしないのです。
偶然の出来事がその「確認」と「再生」の契機となりますが、精神分析でいう「対面法」によるトラウマの克服と同じサイコ・ダイナミックスに見えました。
カウチ(長椅子)の上でのイメージ想起によってではなく、現実体験(もっと現実的には、これも小説家によるイメージなのですが)を通してそれが起きたというだけでは。
結果、読後感は悪くないのですが、無難な、どこかで見たことあるような起承転結に収まった気もして、"芥川賞作品"としてどうなんだろうかとも。
【2007年文庫化[新潮文庫]】