「●よ 養老 孟司」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【535】 養老 孟司 『死の壁』
自らの人生の節目となった経験と併せて語る分、わかりやすい。
『運のつき 死からはじめる逆向き人生論』['04年/マガジンハウス] 『運のつき』新潮文庫['07年]
『死の壁』('03年/新潮新書)とほぼ同時期に刊行された人生論的エッセイですが、個人史を現在から遡りつつ、「死」や「世間」について語っていています。自らの思考方法の形成過程を、人生の節目となった経験と併せて述べているのがわかりやすく("内容"より"人物"がわかったということかも知れませんが)、『バカの壁』『死の壁』を読み解く上で参考になる部分もありました。
東大助手時代に起きた大学紛争に戦争中の雰囲気を感じ、全共闘の闘士のその後の変遷に対して、紛争後も自分なりに総括しようとした立場から、厳しい批判をしています。戦争(非日常)か飯(日常)か、という選択で、著者は「飯」を選ぶ。それは、「死体の引き取り」ということに象徴される、平凡な方法を積み重ねることを重視する考え方でもあります。
科学者がデカルトの心身二元論を批判するのに対し、自分も二元論者であるとして一元論の危うさを説き、「我思う、ゆえに我あり」とは、自己意識そのものを指していているのだと。自分の考え方が仏教の唯識論に近いと認めています。
自らの人生を「所の得ない」人生だったとしています。氏は、本書刊行後のあるインタビューでは、「自分が宇宙人みたいでね」と言って『火星の人類学者』という本の自閉症者に自分を準えていました。
哲学者サルトルは、子どもの頃から世の中が"借り物"のような気がいつもしていたそうで、それは父親を2歳で失ったことに起因するのではと自己分析していますが、氏の「世間」というものに対する感受性も、同じようなところに起因するのではないかと思ったりしました。
【2007年文庫化[新潮文庫〕】