【533】 △ 養老 孟司 『まともな人 (2003/10 中公新書) ★★★ (△ 養老 孟司 『こまった人 (2005/10 中公新書) ★★★)

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「バカの壁」のベースにある著者のスタンスのようなものは窺えるが、「哲学」と言うより「エッセイ」か。
まともな人.jpg 『まともな人 (中公新書)』〔'03年〕こまった人.jpgこまった人 (中公新書)』〔'05年〕
イラスト:南伸坊
0 『まともな人』イラスト.jpg 雑誌「中央公論」に連載された養老氏の時評エッセイ「鎌倉傘張り日記」の2001年1月号〜2003年9月号の掲載文を収録したものです。氏の好きな昆虫標本作りを浪人の「傘張り」に喩え、こうした「日記」の先達として兼好法師を挙げていますが、半分隠居した身で、世評風の日記を"諦念"を滲ませながら書いているところは通じるところがあるかも知れません。

 「時評」と言っても、世の中で「あたりまえ」とされている固定観念の根拠の脆弱さを具体的に解き明かすために、三題噺のネタのような感じで世事をとりあげているので、批評の対象は「社会」ではなく、むしろ「社会」を受け入れている現代人のものの考え方にあるようです。ですから「社会批評」を期待して読むと肩透かしを食いますが、ベストセラーとなった『バカの壁』('03年/新潮新書)のベースにある著者のスタンスのようなものは窺えるかと思います。
  
 本書自体は『バカの壁』より後の刊行ですが、掲載文の大半は『バカの壁』の爆発的ヒットの前に書かれたものです。本書の続編『こまった人』('05年/中公新書)が「中央公論」2003年6月号〜2005年10月号掲載文を収録しているということで、こちらはほぼ"『バカの壁』以後"という見方ができるかと思いますが、その『こまった人』においても特に著者のスタンスに変化はなく、しいて言えば『こまった人』の方が、自分が過去に受けた処遇に対する恨み節や、世間に対するシニカルな見方、老境における諦念のようなものが強くなってきていて、「そんなことはどうだっていいか」みたいな締めで終わる文書も多く、より"自分寄り"な感じがします。

 そのためか、本書は最初、中公新書のジャンル分けで「哲学・思想」に入っていたのに、『こまった人』が刊行されると、"好評「養老哲学」第2弾"と銘打ちながらも、両方とも「エッセイ」にジャンル分けされているようです(確かに「哲学」と言うより「エッセイ」か)。

 『まともな人』...【2007年文庫化[中公文庫〕】/『こまった人』...【2009年文庫化[中公文庫〕】

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