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「●「菊池寛賞」受賞者作」の インデックッスへ(山口 瞳)
作者の「母を恋うる記」であり、封印された一族の秘密を探る物語。
山口瞳 (1926‐1995/享年68)
『血族』〔'79年〕『血族 (文春文庫 や 3-4)』〔'82年〕『血族 (P+D BOOKS)』['16年]
1979(昭和54)年・第27回「菊池寛賞」受賞作(「菊池寛賞」は作品ではなく個人や団体に対して授与されるものだが、この作品が受賞の契機となっており、実質的に本作が"受賞作"であると見ていいのではないか)。
山口瞳(1926‐1995)のこの小説は、野坂昭如が評したように作者の「母を恋うる記」であると言えます。その母は山口瞳に自らの出自を何ひとつ語らず、彼が33歳のときに亡くなってしまう...。母は一体どこで生まれ、どんな環境でどう育ったのか。
自らの生年月日に対する疑念から始まるこの物語は、ミステリーのように読み手を惹きつけながら進行していきます。ただしその過程において、母親の気性や立ち振る舞いなどから多くのヒントを仄めかしています。これは、山口瞳自身がずっと感じていたある予感をも表していると言えるのではないでしょうか。
前半部分で、複雑な血族関係にある様々な親類縁者が、母に関する思い出とともに重層的に描かれていて、こうしたクドイともとれる説明的な面が、家計図モノが苦手な自分にはちょうど読みやすいぐらいでしたです。
それにしても、どうしても素性のよく分からない"縁者"たちがいる...、それらを含め、意図的に封印されたと思われる一族の秘密を解き明かす旅が、後半の主要な部分です。そして一族の深い哀しみの歴史と、「血縁以上に濃い血の塊」に行きつく...。
山口瞳が『江分利満氏の優雅な生活』で直木賞を受賞したのは30代半ば。この『血族』を書いたのは53歳。それまでにも間接的に母親について触れたものはありましたが、やはり作家としてどうしても、56歳で亡くなった自分の母のことを書き記しておきたかったのでしょう。
【1982年文庫化[文春文庫]/2016年[小学館・P+D BOOKS]】