【515】 ◎ 村上 龍 『69 (sixty nine) (1987/08 集英社) ★★★★☆

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自伝的青春小説。エネルギッシュ・自己分裂的・反抗的・純情な青春の特質が描けている。

69 (sixty nine).jpg  『新装版 69 Sixty nine』 2004年新装版  69 文春文庫.jpg 文春文庫 〔'07年〕

 '69年の地方の高校を舞台に、17歳の"僕"を主人公にその周囲の仲間、大人たちを描いた著者の自伝的青春小説で、'84年から'85年にかけて女性誌「MORE」に連載。

 その直前に男性誌「BRUTUS」に連載していた『テニスボーイの憂鬱』('85年/集英社)が今ひとつ肌に合わず、そのイメージがあって本書にも長らく手をつけずにいたところ(長すぎ?)、本書は村上龍のファンにもとりわけ好評で映画化もされたということで、今回初めて読んでみたらなかなか良かったです。

 著者が30代前半で振り返った自らの高校時代ということになりますが、作中においては、著者は地方のやや田舎臭い地平にスンナリ降り切って17歳の主人公の目線になっています。
 一方で、自分の分身である"僕"を戯画化している部分もありますが、これが生き生きしていて、かつ著者の愛着がこもっている感じのものになっているように思えました。
 混沌とした時代の息吹と、自己矛盾に満ちた青春の葛藤がコミカルに描けていて、明るくてパワーがあり、青春小説に欠かせない甘さと切なさも、大人たちへの反抗もあります。

 "特大文字"の使用も効果的で、「というのは嘘で」という表現も、前段を全否定するのではなく、前段と後段がそれぞれに、考えることと出来ることの落差になっていているような感じで、同じく効果的。
 ギャップを抱えたまま存在する、自己分裂的な"青春"時代の特質を表していると言え、全体を通して、それをエンターテインメントに仕上げている。
 最後に登場人物のその後を記した、映画「アメリカン・グラフィティ」('73年/米)のエンディングのような終わり方にも、しみじみさせられます。、

 70年安保の時代の佐世保、進学校ながら多彩な生徒や教師のいる地方高校といった時間的・地域的特殊性があるのに、団塊世代だけでなく若い読者にも受けるのは、エネルギッシュで自己分裂的、反抗的で純情ひたむきな青春の普遍性が描けているからだと思いました。

 【1990年文庫化[集英社文庫]/2004年単行本新装版[集英社]/2007年再文庫化[文春文庫]】

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This page contains a single entry by wada published on 2006年9月10日 14:11.

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