【514】 ○ 村上 春樹 『東京奇譚集 (2005/09 新潮社) ★★★☆

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ファンでも人によって作品ごとに好き嫌いがかなり割れそうなラインナップでは?

村上 春樹 『東京奇譚集』.jpg東京奇譚集.jpg 東京奇譚集2.jpg 表紙絵:榎俊幸
東京奇譚集』(2005/09 新潮社)/新潮文庫['07年]

 編集者で辛口批評家でもあった安原顕(1939-2003)が、『ダンス・ダンス・ダンス』('88年/講談社)以降の村上春樹の小説を認めず、『ねじまき鳥クロニクル』('94年/新潮社)なども初期作品に比べまったく駄目だと酷評していたのに、連作スタイルの『神の子どもたちはみな踊る』('00年/新潮社)が出た途端に、「どえらい傑作」「十数年ぶりの感動!」と、その書評集『「乱読」の極意』('00年/双葉社)において絶賛していました。『羊をめぐる冒険』('82年/講談社)以降の著者の著者の小説(長編)に馴染めないでいる自分も、本書を読み始めて、その時の安原氏と同じような状況になるかなと一瞬期待感を持ったりしました(本書は長編小説ではなく、表題どおりアンソロジーですが...)。

 「偶然の旅人」、「ハナレイ・ベイ」、「どこであれそれが見つかりそうな場所で」、「日々移動する腎臓のかたちをした石」、「品川猿」の5編を収録していますが、エッセイ風の書き出しで始まる冒頭の「偶然の旅人」が良かったです。

 知人のピアノ調律士から聞いた話というスタイルで、ゲイである彼が1冊の海外小説を通して偶然知り会った女性がきっかけで、過去に 断ち切れたある絆を回復するのですが、ミステリアスで且つ味わいがあります。最後に著者の視点に戻って(つまりエッセイ風の視点で)「神様」という言葉が出てきますが、志賀直哉の「小僧の神様」について、作者こそ「神様」であることを示したのではないかという見方があることを思い出しました。

 「どこであれ...」はタイトルやスタイルに翻訳モノ(探偵小説)の味わいがあり、最後の「品川猿」も悪くない(「地下鉄銀座線における大猿の呪い」という著者のエッセイを思い出した)。

 '06年にオコナー賞を受賞した著者ですが、その対象となった英訳短編集にも収録されていたこの「品川猿」などを筆頭に、村上春樹のファンでも人によって作品ごとに好き嫌いがかなり割れそうなラインアップという感じがして、個人的にも、「日々移動する腎臓...」などは、全然イイとは思わなかったのですが、まだ短篇の方が長編小説よりも自分の肌に合うのか、アンソロジーを読むと、その中に幾つかアタリが確実にあるという感じでしょうか。

 【2007年文庫化[新潮文庫]】

《読書MEMO》
榎俊幸(画家)
榎俊幸162.jpg

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