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物語が物語として成立していないような気がした。
『海辺のカフカ』 単行本(上・下) 『海辺のカフカ 全2巻 完結セット (新潮文庫)』 『アフターダーク』('04年/講談社) 『アフターダーク (講談社文庫)』(装丁:和田 誠/写真:稲越功一)
15歳の少年カフカと猫と話ができる老人ナカタさんの話が並行して進んでいくあたりでは期待感を持って読んでいたのですが、ジョニー・ウォーカーやカーネル・サンダースが出てくると、これはステーブン・キングの本かと思ってしまうような雰囲気になり、空から魚が降ってくる場面に至っては、メタファーというより、ただ唐突な印象を受けました。
大島さんという捉えどころの無い女性の対極に、ホシノさんという気のいいリアリティのある人物を配していたり、そのあたりがまた『源氏物語』に登場する生霊や夏目漱石の『坑夫』などのイメージとパラレルになっていたりする複雑な文学的伏線があるようで、"力作"という印象さえ受けるのですが、個人的には、まず物語(少年が大人になる話?)が物語として充分に成立していないのではないかという気がしました(大人になれたのかよくわからない)。
本書出版直後に公式ホームページで読者とやりとりをした往復メールをネットで閲覧しましたが、自分なりに深読みして納得してくれる読者は大勢いるようです(この内容は『少年カフカ』('03年/新潮社)という本になって出版されています)。
一般読者だでけでなく、関川夏央、川上弘美といった読書子が'02年の文芸小説ベスト3に挙げていて、海外でも、今までのムラカミの小説同様、一般の読者の高い評価を得ているようです。一方で、「これを最後まで読むのは正直辛かった」とういう日本の評論家(川本三郎)もいますが、自分の感想もそれに近いものでした。
『となりのカフカ』(池内紀著/'04年/光文社新書)という本に"海辺のカフカ"の写真があり、要するにフランツ・カフカが海水浴場にいるスナップ写真ですが、意外とこんなものがタイトル・モチーフになっていたりして...。
池内紀 『となりのカフカ (光文社新書)』 ['04年]
本作の次の長編『アフターダーク』('04年/講談社)も読みましたが、こちらの方はメタファーを排して、カメラ目線で東京の夜を追った物語でしたが、こうなると今度は翻訳調の会話文以外は著者らしさも無くなってしまい、通俗(風俗?)小説のようになってしまう...(評価★★☆)。毎回、果敢に〈文学的実験〉を試みているのは立派かも知れませんが、それにファンもよくついていくなあと感心。自分としては、著者のエッセイは好きですが、「長編小説」に関してはある時期からずーっと、「村上春樹よ、どこに行く?」という感じがしています。
『海辺のカフカ』...【2005年文庫化[新潮文庫(上・下)]】/『アフターダーク』...【2006年文庫化[講談社文庫]】