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楽しい珍道中もあり、熱い感動もあるシドニー・オリンピック取材記。
『シドニー!』('01年/文芸春秋) 講談社文庫 (上・下)〔'04年〕
雑誌「ナンバー」に連載した'00年のシドニー・オリンピックの取材記ですが、オリンピックというもの自体に懐疑的で、競技としては最初から〈マラソン〉と〈トライアスロン〉にしか興味が無い著者は、むしろ競技場の外で見聞きしたものに対する記述に余念がありません。
わざわざシドニーから1,000キロも離れたブリスベンまで見に行ったサッカーにしても、試合そのものより往復の"珍道中"とでも言うエピソードを楽しく書いています。しかし、やはりこれだけの質と量のものを短期間に書き上げる筆力はさすがだと思いました(著者自身も初めてのことだったようですが)。
オリンピック取材に行って、地元紙のオリンピックに全然関係ない三面記事に言及したり、コアラの生態のことを事細かく書く人もあまりいないと思いますが、オーストラリアという国の歴史や先住民族アボリジニーについて丹念に書いた人もあまりいなかったのではないでしょうか。
高橋尚子が優勝した女子マラソンの描写にはさすがに熱が入っていますが、アボリジニー出身の陸上選手キャシー・フリーマンの女子4百メートル決勝の描写では、それ以上に筆致が冴えわたり、読む者を感動させます。
結果的には、スポーツ雑誌「ナンバー」のコンセプトに沿ったかたちになりましたが、むしろ著者自身のスポーツマインドから来る感動が熱い言葉となってほとばしったと見るべきでしょうか。この著者にしては珍しいと思いました。
【2004年文庫化[文春文庫(「コアラ純情篇」・「ワラビー熱血篇」全2巻)]】