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バーチャルな読書空間を提供している安西水丸氏のイラスト。
単行本['86年/光文社] 『ランゲルハンス島の午後 (新潮文庫)』 (イラスト:安西水丸)
'84(昭和59)年6月より、雑誌「CLASSY.」の創刊号から2年間、イラストレーターの安西水丸氏とともに連載した「村上朝日堂画報」に、表題作を加えたもの。
海外のポップカルチャーから日本の街角で見かけたことや学生時代の思い出まで話題の範囲は広いのですが、肩のこらないショートエッセイが'60年代に対する郷愁を滲ませたような安西水丸のイラストと相俟って、心地良い読後感を与えるものとなっています。
エッセイのタイトルのつけ方も、「洗面所の中の悪夢」とか「地下鉄銀座線における大猿の呪い」といったものまで、ググッと惹きつけるうまさを感じます。
著者の有名な?造語である「小確幸」というタイトルの一文もあります(ただしこの言葉は、レイモンド・カーヴァーの"A Small, Good Thing"というの小説のタイトルに由来しているのだろうと思いますが)。
因みに「ランゲルハンス島」というのは、海に浮かぶ島の名前ではなく、すい臓の中にある"島"なので、地理の教科書ではなく、生物の教科書に出てきます。
美学における美的要素の1つとして「異質なものの組み合わせ」というのがあるそうで、シュールレアリズム絵画などはその典型ですが、著者はそういったことをさりげなくやってみせているという感じがします。
安西水丸氏の見開きイラストの多くは、「机の上の静物」をカラフルに描いたものですが、これが読者に、ハルキ氏のエッセイを読むのにマッチした「バーチャルな読書空間」を提供しているのではないか、と思ったりしたのですがどうでしょうか。
【1990年文庫化[新潮文庫]】
安西水丸(あんざい・みずまる、本名渡辺昇〈わたなべ・のぼる〉)イラストレーター・作家
2014年3月19日、脳出血のため死去。71歳。