【496】 ◎ 宮部 みゆき 『火車 (1992/07 双葉社) ★★★★★

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作者の現代推理小説の中では、「理由」「模倣犯」を凌ぐ傑作。

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火車 (新潮文庫)』 『火車』 ['92年/双葉社] ペーパーバック版 "火車―All she was worth"  テレビ朝日「火車 カード破産の女!」(1994)

 1992(平成4) 年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(国内部門)第1位。1993(平成5)年度・第6回「山本周五郎賞」受賞作。(2008(平成20)年に、「このミステリーがすごい!」の賞創設から20年間のランキングでベスト20に入った作品のトータルで第1位にも輝いた。因みに、発表当時の1993(平成5)年の「このミステリーがすごい!」では『砂のクロニクル』(船戸与一)に次いで第2位だった。)

 休職中の刑事が遠縁の男に頼まれて、失踪した婚約者の女性を探すことになるが、彼女の過去は調べれば調べるほど闇に包まれている。なぜこの主人公の女性は「自分を消す」ということにこれだけ執着し、またそこにどんな落とし穴があったのか―。カード社会の犠牲ともいうべき自己破産者の凄惨な人生を描いた傑作です。

 宮部みゆき作品の中ではとりわけ社会派的色彩が濃いものですが、この作品で衝撃を受けたのは、主人公が最後の最後にしか現れず、セリフも一言もないという凝った造りであることです。それでいて、主人公の情念がじわ〜っと伝わってきます。著者の現代推理小説の中では『理由』('98年)、『模倣犯』('01年)と並ぶ傑作の部類で、むしろ『理由』も『模倣犯』もこの作品を超えていないかも知れないという気もします。

 ところがこの作品は直木賞をとっていないのです。『理由』で直木賞をとる前に、『龍は眠る』('91年)、『返事はいらない』('91年)、『火車』('92年)、『人質カノン』('96年)、『蒲生邸事件』('96年)と候補になりながら選にもれたものがありますが、個人的には、『火車』でとるべきだったと思います。『火車』の直木賞落選の「選評」で、「重要人物が描けていない」という批評にはガックリきたという感じ。明らかに主人公のことを指していますが、"自分を消した"女性が主人公なのだから...。

火車 last 1994.jpg '94年に"2時間ドラマ"化されていて、「火車 カード破産の女!」というタイトルで『土曜ワイド劇場』のテレビ朝日開局35周年特別企画として放映されていますが、主人公の新城喬子(関根彰子)役の財前直見は原作同様、ラストシーンを除いてほとんど出て来ず、それでいてドラマ全体を支配していました。原作の優れた点をよく生かしたドラマ化だったと思います。

 作家の倉橋由美子は、この小説を絶賛したうえで、ラストは「太陽がいっぱい」(パトリシア・ハイスミスの原作でなく、映画の方)に似ていると書いていますが(『偏愛文学館』('05年/講談社))、確かに。

「火車-カード破産の女!」 ラストシーン

財前直見  .jpg火車 1994.png「火車 カード破産の女!」●演出:池広一夫●制作:塙淳一●脚本:吉田剛●出演:三田村邦彦/財前直見/沢向要士/船越栄一郎(船越英一郎)/山口果林/角野卓造/森口瑤子/山下規介/大畑俊/吉野真弓/菅原あき/畠山久/奥野匡/小沢 象/たうみあきこ/加地健太郎/飯島洋美/舟戸敦子/沢向要士/角野卓造●放映:1994/02(全1回)●放送局:テレビ朝日   

「火車-カード破産の女!」 新城喬子(財前直見)
 
 【1998年文庫化[新潮文庫]】

「このミステリーがすごい!」ベスト・オブ・ベスト(2008年版までの20年間分のランキングでベスト20に入った作品が対象。アンケート結果は2008年2月刊行の『もっとすごい!! このミステリーがすごい!』で発表された。)
第1位 火車(宮部みゆき 1993年版 2位)
第2位 生ける屍の死(山口雅也 1989年版 8位)
第3位 魍魎の匣(京極夏彦 1996年版 4位)
第4位 私が殺した少女(原尞 1989年版 1位)
第5位 新宿鮫(大沢在昌 1991年版 1位)
第6位 ダック・コール(稲見一良 1992年版 3位)
第7位 空飛ぶ馬(北村薫 1989年版 2位)
第8位 双頭の悪魔(有栖川有栖 1993年版 6位)
第9位 レディ・ジョーカー(髙村薫 1999年版 1位)
第10位 白夜行(東野圭吾 2000年版 2位)
第11位 毒猿 新宿鮫II(大沢在昌 1992年版 2位)
第12位 男たちは北へ(風間一輝 1989年版 6位)
第13位 エトロフ発緊急電(佐々木譲 1989年版 4位)
第14位 不夜城(馳星周 1997年版 1位)
第15位 煙か土か食い物(舞城王太郎 2002年版 8位)
第16位 ガダラの豚(中島らも 1994年版 5位)
第17位 絡新婦の理(京極夏彦 1998年版 4位)
第18位 時計館の殺人(綾辻行人 1992年版 11位)
第19位 三月は深き紅の淵を(恩田陸 1998年版 9位)
第20位 模倣犯(宮部みゆき 2002年版 1位)

2022年・第70回「菊池寛賞」受賞(同時受賞の三谷幸喜氏と)
2022菊池寛賞.jpg

《読書MEMO》
火車 ドラマ   ド.jpg宮部みゆき原作 ドラマスペシャル 火車 上川 terawaki .jpg●2011年再ドラマ化 【感想】 本間(上川達也)は新城喬子(佐々木希)より本物の関根彰子(田畑智子)を追っているような印象にもなってしまったが、佐々木希のセリフが最後まで一言も無かったのは正攻法と言える。原作の良さにも助けられているものの、やはり'94年の財前直美版には及ばない(特にラストシーンは'94年版の素晴らしさには遠く及ばない)。
   

火車 ドラマ00.jpg火車 ドラマ03.jpg「宮部みゆき原作 ドラマスペシャル 火車」●演出:橋本一●脚本:森下直●原作:宮部みゆき●出演:上川隆也/佐々木希/寺脇康文/田畑火車 ドラマ5b.jpg火車 ドラマ5e.jpg火車 ドラマc03.jpg智子/ゴリ(ガレッジセール)/渡辺大/鈴木浩介/高橋一生/井上和香/前田亜季/藤真利子/美保純/金田明夫/笹野高史/茅島成美/山崎竜太郎/ちすん/上間美緒/長谷川朝晴/谷口高史●放映:2011/11/05(全1回)●放送局:テレビ朝日

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