【492】 ◎ 三島 由紀夫 『不道徳教育講座 (1959/03 中央公論社) ★★★★☆

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「●「菊池寛賞」受賞者作」の インデックッスへ(挿画:横山 泰三)

30代前半で既に「遊ぶ」余裕をみせる三島の洒脱なエッセイ。

不道徳教育講座 三島由紀夫.png  『不道徳教育講座』.jpg   不道徳教育講座2.jpg  不道徳教育講座.jpg
不道徳教育講座』['69年/中央公論社](表紙デザイン:横尾忠則/撮影:篠山紀信、本文イラスト:横山泰三)/['67年/角川文庫(旧版)](表紙イラスト:横山泰三)/『不道徳教育講座』 角川文庫(改訂版)

 その小説において優雅かつ華麗で、時に高邁、貴族的な"近寄り難さ"さえ見せる三島由紀夫(1925‐1970)ですが、より幅広い読者に向けた"近寄りやすい"洒脱なエッセイも書いていて、本書はその代表的なものです。

 '59(昭和33)年に「週刊明星」に連載されたものですが、『仮面の告白』や『禁色』など"特殊"な性愛を描いていた時代を経て、『潮騒』『永すぎた春』『美徳のよろめき』など"普通"の恋愛小説で流行作家となる一方、ボディビルで新たな肉体を獲得し、心身ともに自信を得た30代前半の彼の筆は、既に「遊ぶ」余裕を見せています。

 時代を経て、対象として描かれている風俗などの毒気は薄くなりましたが、世間の薄っぺらな道徳観や倫理観を、鋭い人間観察と精巧な論理で以って覆していく鮮やかさは、今読んでも卓越しているなあと思います。

 「醜聞を利用すべし」「痴漢を歓迎すべし」「うんとお節介を焼くべし」「できるだけ己惚れよ」「「殺っちゃえ」と叫ぶべし」「スープは音を立てて吸うべし」「人の不幸を喜ぶべし」等々、ユーモア満載です。

ジャネット・リン.jpg 「桃色の定義」などは、「舞台に転倒したバレリーナのむきだしになったお尻に、突然ワイセツがあらわれるのです」といった表現で、サルトルの『存在と無』の肝に当たる部分を分かりやすく説いています。フィギアスケーターなんてどうなんだろう、しょっちゅう転ぶけれども。札幌五輪のジャネット・リンみたいに、転んだことで"妖精"になった選手もいたし(勿論、その転んだ後も笑顔で滑って、メダルを獲得したということが好感を得た要因ではあるのだろうが)。

 他にも、この論駁法ってどっかにあったような、と思うとソクラテスだったり...。この人、ある意味、教養や倫理を大事にしている。勿論、肉体も。

不道徳教育講座3.jpg不道徳教育2.jpg 単行本の初版は'59(昭和34)年で、ハードカバー2段組み。角川から、文庫版に準拠したソフトカバー新装版が出ています。横山泰三.jpg単行本の装填デザインは最初は佐野繁次郎で、'69(昭和44)年版で横尾忠則(撮影:篠山紀信)に。本文の挿画は朝日新聞の「社会戯評」でお馴染みの横山泰三(1917-2007、「フクちゃん」の横山隆一の弟。1950年から毎日新聞で漫画「プーサン」を描いて注目され、'54年に菊池寛賞受賞。朝日の「社会戯評」は'54年から'92年末まで1万3561回、ほとんど休みなく連載を続けた)。
横山泰三

 横尾忠則氏の毒気のある装丁も悪くないですが、「プーサン」の漫画家・横山泰三の人を喰ったような軽妙な挿画が文書とうまくマッチしているような気がします(横尾忠則の表紙デザイン、横山泰三の挿画とも、1995年刊行の角川書店ソフトカバー新装版にはないのが残念)。

 【1959年単行本・1969年改装版[中央公論社]/1967年文庫化[角川文庫]/1995年ソフトカバー新装版[角川書店]】

1 Comment

横山 泰三(よこやま たいぞう)2007年6月10日、肺炎のため死去(90歳)

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This page contains a single entry by wada published on 2006年9月10日 11:40.

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