【481】 ○ 藤沢 周平 『漆黒の霧の中で―彫師伊之助捕物覚え』 (1982/02 新潮社) ★★★★

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彫師伊之助のキャラクターを確立した快作時代推理(時代人情)物。

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漆黒の霧の中で―彫師伊之助捕物覚え』(1982年) 『漆黒の霧の中で―彫師伊之助捕物覚え (新潮文庫)』(カバー:蓬田やすひろ)

 藤沢周平(1927‐1997)の時代小説のシリーズものでは、「用心棒日月抄」「獄医立花登手控え」「隠し剣」などと並ぶのがこの「彫師伊之助捕物覚え」です。
 主人公の伊之助は、元は凄腕の岡っ引でしたが、妻が他の男と無理心中したことから岡っ引を辞め、今は木彫り職人としてある意味むしろ気ままに働いています。
 しかしかつての彼の実力を知る同心からなんやかやで要請を受け、昔とった杵柄で難事件を解決する―。

 本作はシリーズの第1弾「消えた女」に続く第2弾で、連続殺人事件を扱っているものの、ミステリーとしての色合いよりも江戸の市井の人々の人情話的要素がふんだんに盛り込またものとなっています。
 「彫師伊之助」は過去を引きずった翳のある人物ですが、職人としての一見平凡な日常、事故死に見せかけた殺人を見抜く鋭さ、女性に対するやさしい一面などを含め、そのハードボイルド風のキャラが本作において確立したとも言えます。
 
 職場では自分の過去や事件捜査をしていることを隠して"定時退社"しているところなど、サラリーマンの「俺には皆に言えない別の顔があるのだ」みたいな、何かそんなものが自分にもあればカッコいいかなというイマジネーションを刺激するのかも知れません。
 
 推理小説としてどうかという部分は多少ありますが(むしろ人情物?)、全編通して会話が多く、テンポよく読める快作です。

 【1986年文庫化[新潮文庫]】

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This page contains a single entry by wada published on 2006年9月10日 11:15.

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