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少年法と復讐殺人。テーマのための人物造形とプロットになった?
『さまよう刃』(2004/12 集英社) 『さまよう刃 (角川文庫)』 映画「ロサンゼルス」('82年/米) チャールズ・ブロンソン
新潮文庫 映画タイアップカバー(2009年映画化)
花火大会の夜、長峰は一人娘の絵摩の帰りを待っていた。同じ頃、中井誠はアツヤとカイジの命令で父の車を運転していたが、浴衣姿で独り歩いている娘に目をつけた2人は、娘にクロロホルムを嗅がせて車に引き摺り込む。中井は、車を返せという父からの電話で自宅へ帰る。数日後、長峰の元に刑事が来て荒川に浮かんでいた死体を確認してくれと言われ、それは娘の無惨な姿だった。悶絶する長峰の元に、「絵摩さんはトモザキアツヤとスガノカイジの2人に殺されました」という密告電話が入り、アツヤの住所と合鍵の場所も教える。長峰はそのマンションに向かい、部屋に忍び込みアツヤにレイプされた絵摩の映像を見つける。絵摩はレイプ後、覚醒剤の大量摂取で死んだのだ。長峰は、マンションに帰ってきたアツヤを近くにあった包丁で泣きながら何度も刺し、彼の死に際に、相棒のカイジが長野のペンションに逃げていると聞き出すと、今度はカイジの行方を追うために長野に向かう。自分が逮捕されることを厭わない長峰は、警察に思いの丈をぶつけた手紙を送り、それはニュースでも報道され、世間と警察を大きく揺るがすことになった―。
娘をレイプされ殺された父親が、犯人の1人の少年を殺害し、残りの1人を追う―。「少年法」の保護により重い裁きを免れるだろう彼を生かしてはおけないという父親の行動と、「復讐殺人」に対する世間やマスコミの賛否のなかで、逃亡する少年と父親の双方を追う刑事たち―という構図です。以前読んだ同作者の『手紙』('03年/毎日新聞社)が犯罪加害者の家族の視点から書かれたものであったのに対し、こちらは犯罪被害者の家族を中心に据えたものと言えます。
昔、チャールズ・ブロンソン主演の映画で「ロサンゼルス」('82年/米)という、愚連隊(ちょっと言葉が旧いか)に娘をレイプされ殺された父親が、単独で犯人達に復讐を図るというものがありましたが、彼こそ「自衛市民」だと世間の評判が高まり警察が苦慮するところなども少し似ていて、つい思い出しました。
本書もテーマは重いのですが、登場人物の描き方にやや厚みがなく、テーマを浮き立たせるために単純化しちゃったのかなあという感じでした。長編ですが、何のひっかかりもなくスラスラ読めるのは、文体が平易簡潔なだけでなく、先の行動が読めてしまうということもあったかも。
それでも終盤で緊迫した見せ場をつくりところは、やはり東野作品であり、また密告電話の主は誰なのかということでも関心を引きます。しかしラストは、読者のカタルシスよりもテーマを重視したという感じで、総じて「少年法」「復讐殺人」というテーマのために用意された登場人物とプロットだったという印象です。
因みに映画「ロサンゼルス」の方は、犯人が次々とブロンソンおやじに殺されていきますが、1人だけは警察によって逮捕され精神鑑定で無罪になります。しかしブロンソンは諦めず、医者に化けて精神病院に潜入し、最後の1人を射殺するというものでした(カタルシス重視でいくならば、ここまでやっちゃっていいのかも)。同じ「復讐に憑かれた男」でも、肉食動物と草食動物ぐらい違いますが、途中で警官が犯人に殺られて、死に際にブロンソンに「必ずお前が奴を殺れ」みたいなことを言っており、ここが『さまよう刃』と一番違う点だったかも知れません(強いて言えば、密告電話の主がこれに近いか。映画自体は、冒頭の娘が殺される場面があまりに残虐で、評価△)。
この映画「ロサンゼルス」('81年、原題:Death Wish Ⅱ)は「狼よさらば」('74年、原題:Death Wish)の続編にあたり、前作でもブロンソン演じる主人公の平凡な開発技師ポール・カージーは、妻を殺害され、娘を凌辱されたことで、犯罪者を見つけ次第自らの手で処刑する「一人自警団」に変貌しています。この主人公が愛する家族をチンピラに殺されたことをきっかけに、街をうろつくダニどもを容赦なく射殺する死刑執行人となったという"デス・ウィッシュ"シリーズは、その後「スーパー・マグナム」('85年、原題:Death Wish Ⅲ)、「バトルガンM-16」('87年、原題:Death Wish Ⅳ: The Crackdown)、「DEATHWISH/キング・オブ・リベンジ」('93年、原題:DEATH WISH V: THE FACE OF DEATH)と第5作まで作られ、ブロンソン=ポール・カージーのダニ射殺数は計100を超えており、チャールズ・ブロンソンの総劇中「"殺し"数の25%を稼ぐ」と言われる代表作となっています。
Charles Bronson
チャールズ・ブロンソン(Charles Bronson、1921‐2003/享年81)はリトアニア系移民の子として生まれ、タタール人の血をひく俳優であり(確かにアジア系っぽい感じも少しある)、家庭は貧しくて、少年の頃から炭鉱夫として働いていたこともある苦労人でした。
ジョン・スタージェス監督の「荒野の七人」(60年/米)の7人のガンマンの1人として売り出し、日本では映画の他に、男性用化粧品「マンダム」のCM(1970年)でも知名度が上がりました。「う〜ん、マンダム」というのが決め台詞のこのCMのディレクターは、現在は映画監督として活躍している大林宣彦で、日本で初めてハリウッドスターを起用したCMだっとのこと。CM並びに商品のヒットにより、「丹頂」という社名だった化粧品会社(代表的商品に「丹頂チック」があり、今もレトロ商品として販売されている)が、自社名を一商品名にすぎなかった「マンダム」に改めた(1972年)という経緯もありました。
「ロサンゼルス」●原題:DEATH WISH 2●制作年:1981年●制作国:アメリカ●監督:マイケル・ウィナー●製作:メナハム・ゴーラン/ヨーラン・グローバス●脚本:デヴィッド・エンゲルバック/マイケル・ウィナー●撮影:リチャード・H・クライン●音楽:ジミ-・ペイジ●時間:92分●出演:チャールズ・ブロンソン/ジル・アイランド/ビンセント・ガーディア/マイケル・プリンス/ベン・フランク/ロビン・シャーウッド/アンソニー・フランシオサ/J・D・キャノン/ケヴィン・メイジャー・ハワード/ラリー・フィッシュバーン(ローレンス・フィッシュバーン)●日本公開:1982/03●配給:コロムビア映画●最初に観た場所:新宿西口パレス(82-09-18)(評価★★★)●併映「シャーキーズマシーン」(バート・レイノルズ)
新宿(西口)パレス 新宿西口小田急ハルクそば「新宿三葉ビル(三葉興行ビル〈現・三葉興業本社ビル〉)」内。1951年12月28日オープン。1986(昭和61)年11月14日閉館。
【2008年文庫化[角川文庫]】
マイケル・ウィナー(イギリス出身の映画監督・映画プロデューサー)
2013年1月21日、肝臓疾患のため英ロンドンの自宅で死去。享年77歳。