【477】 ○ 東野 圭吾 『手紙 (2003/03 毎日新聞社) ★★★☆

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殺人犯を兄に持つ弟が受ける偏見を描く。読者ツボは心得ている感じ。
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手紙』 (2003/03 毎日新聞社)『手紙 (文春文庫)』 〔'06年〕 映画「手紙」(2006 『手紙』 製作委員会) 監督:生野慈朗 出演:山田孝之/玉山鉄二/沢尻エリカ/吹石一恵

 弟の大学進学のための金欲しさに空き巣に入った武島剛志は、思いがけず老婦人を殺してしまい懲役15年の刑に服することになる。突然独りぼっちになり、途方に暮れる高校生の武島直貴だったが、謝罪するつもりで訪れた被害者の家の前で、遺族の姿を見かけただけで逃げ出してしまう。高校の卒業式の2日前の直貴の元に、獄中の兄から初めての手紙が届く。それから月に一度、手紙が届くことになる。 獄中の兄の平穏な日々とは裏腹に、進学、就職、音楽、恋愛、結婚と、直貴が幸せをつかもうとするたびに、彼の前には「強盗殺人犯の弟」というレッテルが立ちはだかる。それでも、理解してくれる由実子と結婚して一時期、幸せが訪れるが、娘の実紀が仲間はずれにされ、正々堂々と生きて行く意味を考えてしまう。そして―。

繋がれた明日.jpg 犯罪者の肉親の立場から、兄が殺人犯であるということで社会的偏見を受ける苦しみを描いていて、犯罪者が仮釈放されたときに受ける社会的偏見を描いた真保裕一の『繫がれた明日』('03年/朝日新聞社)と同時期に、ともに直木賞候補になりましたが、テーマがダブったせいか?どちらも受賞を逃しました(受賞は石田衣良と村山由佳)。

 テーマがダブると言っても、犯罪者自身とその肉親とでは描く視点が大いに違ってく来るので、あまり比較しても仕方がないかなという感じですが...。ただし、『繋がれた明日』の方がシリアスな状況を描いてリアリズムに徹しようとして、逆に個々のキャラクターはどこかで見た映画の登場人物のような人物造詣になっているのに対し、『手紙』の方は、自分の場合は最初から"ストーリーテラー・東野圭吾"という文脈で読んでしまうせいなのか、「ウソ臭い」のに作品としては違和感がないという、ある意味皮肉な結果になりました。

映画版「手紙」.jpg エンターテインメントとしての手順をきっちり踏んでいて、読者を主人公の味方にし、考えさせながら感動もさせる...技巧派というか手馴れているなあという感じで、このあたりが逆に、直木賞選考委員にはアザトいと見られたのかなという気もします。それでも、作者なりにひとつの考え方を、"手紙"という小説における小道具を使って示していて、それはある意味逆説的で意表を突くものであり、すべてのケースでこの考え方が当てはまるなどと安易には言えないでしょうが、なるほどなあと思わせる部分はありました。
映画「手紙」(2006 『手紙』 製作委員会) 監督:生野慈朗 出演:山田孝之/玉山鉄二/沢尻エリカ/吹石一恵

 【2006年文庫化[文春文庫]】

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