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いい味出していて思わず笑わされ、人と組織を見通す理性も感じる。
中島らも(1952‐2004/享年52)
『ビジネス・ナンセンス事典』('93年新装版)イラスト:ひさうちみちお 『ビジネス・ナンセンス事典 (集英社文庫)』
中島らも(1952‐2004)のエッセイ風作品で、最初リクルート版で、今回は講談社版で読みましたが、いい味出ているなあと思います。
愛、阿諛追従、慰留、陰謀...というように五十音順で出てくる90語のテーマごとに書かれていますが、ある程度「お題」を決めて書いていると思われる点が、コピーライター出身の作者らしいと思いました。
昔見た「啓蒙かまぼこ新聞」という、黒メガネかけてワルそうな〈てっちゃん〉が出てくる漫画シリーズは、これって企業に対する「悪意」? もしかして「広告」なの?とグッと引きつけるものでしたが(実は「かねてつ食品」の広告だった)、作者のクリエイターとしての非凡さが窺えるものでした(この時の作品群は、そのまま『啓蒙かまぼこ新聞』('87年/ビレッジプレス)という本になっている)。
でもこの人、灘中→灘高→大阪芸大という学歴もさることながら、広告代理店で企画・制作業務につく前に、印刷会社で「営業」の仕事をしているのですね。本書は、その経験がかなり生かされているようで、特別に特殊な体験が語られているわけではないですが、その辺りが逆に読者に身近な共感を呼ぶのかも。
1話3ページの話の中にはショートショート風仕立てのものも多く、ベースとしてはエッセイ集であるのに、それぞれの展開やオチを楽しみながら読めます(書く方は大変だろうけれど、そういう意味では大したサービス精神!)。
僻地の事業所からの営業報告書の形態をとった「左遷」のような話には、今回も思わず笑わされました。
ダメな会社、部下に好かれない上司というものがどういうものであるかが、会社人間になり切ることの哀しさのようなものとともに伝わってくる面もあり、作者の営業時代のルサンチマンをやや感じますが、今現在頑張っているビジネスパーソンへのやさしい応援歌ともとれます。
営業経験とか独自の感性とか全部ひっくるめて、作者の人と組織を見通す理性的な力になっている気がしました(ビジネス書としても読めます)。
【1993新装版[講談社]/1998年文庫化[集英社文庫]】