【463】 ◎ 手塚 治虫 『陽だまりの樹 (全8巻)』 (1995/07 小学館文庫) 《陽だまりの樹 (全11巻)』 (1983/05 小学館・ビッグコミックス)》 ★★★★☆

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手塚治虫の歴史物の中では最高傑作。「伊武谷万二郎」のモデルは?
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陽だまりの樹 全巻セット (小学館文庫)』 (全8巻) ['95年]/小学館ビックコミックス(全11巻) ['83年]/日本テレビ系列「陽だまりの樹」['00年]

陽だまりの樹001.jpg 1981(昭和56)年4月から1986(昭和61)年12月まで「ビッグコミック」に掲載の、幕末を舞台に、蘭学医・手塚良仙の息子の良庵と、府中藩士の伊武谷万二郎の2人の生き方を描いた手塚治虫後期の作品で1983(昭和58)年・第29回「小学館漫画賞」(青年一般部門)受賞作。手塚良庵(後の良仙)は実在の人物で作者の曽祖父にあたる人、主人公の伊武谷万二郎は一応架空の人物とされているようです。

伊佐新次郎.jpg 手塚治虫の歴史物の中では最高傑作の1つではないかと思います。しっかりした時代考証の上に生き生きとした創作を織り込むところは、司馬遼太郎の初期作品などを想起させます。

 米国総領事として下田に逗留したハリスと通訳のヒュースケンの周辺は相当詳しく調べたようです。「唐人お吉」は実在の人物ですが、お吉にハリスの侍妾として仕えるよう説得したのが下田奉行頭取の「伊佐新次郎」という人であるようです。

お吉を説得する下田奉行頭取・伊佐新次郎

陽だまりの樹002.jpg 主人公「伊武谷万二郎」はこの実在の人物をモデルにしたのではないかと思われます。「伊佐新次郎」という人は実際に熱血肌の人だったようです。お吉がハリスに仕えたのは僅かの期間ですが、その後の彼女の運命に大きな影響を与えました(個人的にはその辺りの経緯を、下田の観光バスガイドの話で初めて知った)。

 このシリーズを買うならば、講談社の全集のものより小学館文庫の方をお薦めします。小学館叢書として'88年に刊行された四六判 (全7巻)の文庫化ですが、セピア調の写真入りのカバーが良く、第2巻表紙のスフィンクス像の前での武士たちの記念写真なども珍しいものです。

 個人的には、文庫版第3巻の巻末解説で、横内謙介氏が手塚治虫と三島由紀夫を対比して、両者の共通点と相違点を述べているのがたいへん興味深かったです。

陽だまりの樹 dvd.jpgBS時代劇「陽だまりの樹.jpg 尚、この作品は2000年4月から9月まで日本テレビ系で連続アニメドラマとして放送され(全25話)、第4回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門(テレビシリーズ・長編)で優秀賞を受賞していますが、午前1時近くから始まる深夜放映だったためで、どれだけの人の目に触れたか(全編を通して観たわけではないが、安易にストーリーをいじらず、ほぼ原作通りだったのではないか)。(2012年にNHK・BS時代劇「陽だまりの樹」として実写版が4月6日(金)から放送された(全12話)。配役は伊武谷万二郎が市原隼人、手塚良庵が成宮寛貴。)
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 因みに、手塚治虫は朝日新聞の「朝日賞」は'87年に受賞していますが、文藝春秋の「菊池寛賞」は受賞していません。共に「作品」ではなく「人」を対象にした賞ですが、この『陽だまりの樹』の連載と並行して連載されていた『アドルフに告ぐ』('83-'85年)が「週刊文春」の連載であったため、「菊池寛賞」受賞かと思われましたが、当時の文藝春秋社社長が「漫画なんかに菊池寛賞をやれるものか」と反対したため実現しなかったそうです。以降は、加藤義郎('88年の受賞)、東海林さだお('97年の受賞)のようにコマ漫画で菊池寛賞を受賞している漫画家はいるものの、ストーリー漫画については、手塚治虫が受賞を逃しているということで、受賞のハードルが高くなってしまったようです(今年['06年]12月にいしいひさいち氏の受賞が発表されたが、いしい氏もコマ漫画家である)(2016年に『こちら葛飾区亀有公園前派出所』を40年間一度の休載もなく描き続けてきた秋本治氏が受賞した。ただし『こち亀』も一話完結型のギャグ漫画である)

陽だまりの樹 アニメ.jpg「陽だまりの樹」●監督:杉井ギサブロー●脚本:高屋敷英夫/水上清資/川嶋澄乃/大久保智康●音楽:松居慶子●原作:手塚治虫●出演(声):山寺宏一/宮本充/折笠富美子/永井一郎/松本梨香/納谷六朗/大木民夫/堀越真己/幸田直子/三石琴乃/沢海陽子/根谷美智子/家中宏/関智一/郷里大輔/小形満/有本欽隆/くればやしたくみ/前田剛/志村和幸●ナレーション:中井貴一●放映:2000/04~2000/09(全25回)●放送局:日本テレビ

 【1983年コミックス版(全11巻)・1988年四六判(全7巻)・1999年ワイド判(全6巻)[小学館]/1993年全集[講談社(全11巻]/1995年文庫化[小学館文庫(全8巻)]/2008年ビックコミックスペシャル改装版(全6巻)[小学館]/2012年再文庫化[講談社・手塚治虫文庫全集(全6巻)]】

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