【455】 ○ 筒井 康隆 『乱調文学大辞典 (1972/01 講談社) ★★★★

「●つ 筒井 康隆」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3074】 筒井 康隆 『あるいは酒でいっぱいの海

今読んでも面白い!ハチャメチャぶりと虚実皮膜の間。

乱調文学大辞典1972.jpg 『乱調文学大辞典』cover2.jpg 乱調文学大辞典2.jpg 乱調文学大辞典.jpg 
『乱調文学大辞典』〔'72年/講談社〕/『乱調文学大辞典 (講談社文庫)』〔'75年〕/角川文庫〔'86年〕(カバーイラスト:いずれも山藤章二
『乱調文学大辞典』obi.jpg 学校で教わった文学史は忘れても、この本の「太宰治:大宰府を治める人」なんていうのは忘れられません。この突き抜けたようなナンセンス!

 二葉亭四迷というペンネームが父親に言われた言葉かどうか異説があるにしても、「くたばってしめぇ」に由来するというのは事実のようで、そうした虚実皮膜の間もあって、今読んでもたいへん面白いと思います
 島崎藤村が「島崎」という人と「藤村」という人の合作ペンネームであるといった"純粋な冗談"もありますが、雑誌「中央公論」のそもそもの始まりが、禁酒運動の機関誌であったことなどは"事実"です。   
       
『乱調文学大辞典』nakami.jpg 「愛書家」が「フェティシズムの一種」なんてねえ。でも、まったく見当違いでもないような気も。「愛書家」の英訳ビブリオフィリア(ビブロフィリア)は書物崇拝狂などと呼ばれたりもしますから。

 「アウトサイダー:密造の清涼飲料水」とか、文学に一見関係ないような項目もありますが(コリン・ウィルソンが『アウトサイダー』という著書の中で、ヘミングウェイ、サルトル、ドストエフスキー、ゴッホらを指して、社会秩序の内にあることを自らの意思で拒否する者をそう呼んでいるが、読者がどれぐらいそのことを知っているだろうか)、まあ面白ければいいという感じで、読者もそれで満足するのでは。

 「悲喜劇」の項などは、読んだとたんに思わず声を出して笑ってしまいます。
 
 初出は「小説現代」の連載。単行本は'72(昭和47)年に講談社からソフトカバーで出ていましたが、時代がかった博物誌的な挿画に、アンブローズ・ビアスの『悪魔の辞典』などに対する意識が窺えます。 
 
『乱調文学大辞典』nakami2.jpg 当時の筒井氏は何度目かの直木賞候補になってはいますが、SF作家としては、星新一、小松左京、光瀬龍といった横綱クラスに比べれば関脇か小結だったでしょう。そのことは付録の「あなたも流行作家になれる」を見てもわかります。

 しかし、この本のハチャメチャなパワーは、その後のSFに限らないジャンルでの活躍を予感させるものでもありました。

 【1975年文庫化[講談社文庫]/1986年再文庫化[角川文庫]】

About this Entry

This page contains a single entry by wada published on 2006年9月10日 00:42.

【454】 ◎ 筒井 康隆 『脱走と追跡のサンバ』 (1971/10 早川書房) ★★★★☆ was the previous entry in this blog.

【456】 ○ 筒井 康隆 『わたしのグランパ』 (1999/08 文芸春秋) ★★★☆ (○ 東 陽一 「わたしのグランパ」 (2003/04) ★★★☆) is the next entry in this blog.

Find recent content on the main index or look in the archives to find all content.

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1