【451】 △ 谷崎 潤一郎 『蓼喰う虫 (1948/12 岩波文庫) 《 蓼喰ふ蟲 (1929/11 改造社)》 ★★★

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契約解除としての離婚と古き良き江戸情緒?小出楢重の挿絵で触れる谷崎のモダン感覚。

蓼喰ふ蟲.jpg蓼喰う虫.gif  小出楢重.jpg 小出 楢重(1887-1931)
蓼喰う虫 (岩波文庫 緑 55-1)
1929(昭和4)年11月刊行 改造社版

蓼喰う虫 (岩波文庫 緑 55-1) .jpg 1928(昭和3)年発表の谷崎潤一郎(1886‐1965)の長編小説(単行本刊行は翌年)で、妻に愛人がいて自身も娼館に通っているという既に破綻した夫婦関係にある男が、なるだけ妻子を傷つけないように離婚するにはどうしたらよいかを考えているというのがモチーフになっています。

 主人公の男が離婚を「契約解除」的に考えようとしているところが、谷崎の実生活と重なる点でもあり、モダンと言えばモダン。しかし一方で、義父(妻の父)の浄瑠璃の趣味に付き合って、人形浄瑠璃を見に淡路島くんだりまで妾帯同の義父にわざわざ付き添うなど、優柔不断と言えば優柔不断。これらの話に統合性が無いような感じもあり、スラスラと書いてはいるけれど内容的には通俗小説の域を出ないのではないかという気もしました。

 関東大震災後に関西に移住した谷崎が、変化の激しい東京よりも関西に古典的情緒の名残を見出したことは知られていますが、夫婦の危機と併せてそれを描くことで、伊藤整なども指摘しているように「主題の分裂」を感じます。

小出楢重と谷崎潤一郎_.jpg 敢えてとりあげたのは、岩波文庫版に新聞連載(83回)時に近いかたちでの小出楢重の挿蓼喰う虫2.jpg絵全83葉が収録されているためで、おかげで人形浄瑠璃の桝席の様子や「封建の世から抜け出してきたようだ」という妾・お久の様子などがわかりやすいのですが、その他生活や風俗などで当時の「モダン」なものも多く描いていて興味深いからです。

「蓼喰う虫」 岩波文庫版 挿絵(小出楢重)


小出楢重と谷崎潤一郎 小説「蓼喰ふ虫」の真相
神戸オリエンタル・ホテル (1910年代/現在)
神戸オリエンタル・ホテル.jpg神戸オリエンタル・ホテル 現.jpg 主人公が"西洋"娼館に行く前に神戸オリエンタル・ホテルで食事したり(そう言えば、『細雪』の主人公一家も特別な時にはこのホテルを使っている設定になっていた)、従弟がマドロスだったり、飼い犬がグレイハウンドだったりと、ハイカラな雰囲気に満ちた小説ですが、その背景が視覚的に堪能できるのがいい。

 主人公が自宅の洋風バスにゆったり浸かっている絵などを見ると、『鍵』('56年)や『瘋癲老人日記』('61年)とあまり時代背景が変らない錯覚に陥りますが、この小説の連載は'28(昭和3)年から翌年にかけてで、それら作品より30年ぐらい前に発表されたものであることに驚かされ、作者のモダンな感覚に改めて触れた思いがします。

 【1932年文庫化[春陽堂文庫]/1939年再文庫化・1951年改版[新潮文庫]/1946年再文庫化[鎌倉文庫]/1948年再文庫化・1970年・1985年改版[岩波文庫]/1952年再文庫化[角川文庫]】

《読書MEMO》
●「蓼喰う虫」...1928(昭和3)年発表

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This page contains a single entry by wada published on 2006年9月10日 00:32.

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