【449】 ◎ 太宰 治 『人間失格 (1952/10 新潮文庫) 《(1948/07 筑摩書房)》 ★★★★☆

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「青春小説」であり、純粋さゆえに滅び行く男の痛切な叫びでもある。
人間失格2.gif人間失格.jpg 人間失格3.jpg  太宰治全集〈9〉 (ちくま文庫)斜陽・人間失格.jpg  起雲閣.jpg 熱海・起雲閣  
人間失格 (1948年)』 (筑摩書房刊)『人間失格 (新潮文庫)』 〔旧版/新装版〕 『太宰治全集〈9〉 (ちくま文庫)
新潮文庫2018年・2019年プレミアムカバー
新潮文庫 プレミアムカバー 2018dazai.jpg新潮文庫2019年プレミアムカバー太宰.jpg 1948(昭和23)年の3月から5月にかけて書かれた太宰治(1909‐1948)39歳、最晩年の作品。20代後半の廃人同様の画家が、自分の子ども時代から20歳前後までを振り返る「手記」形式になっていますが、その生い立ちや自殺未遂、女性問題や心中事件、思想事件などに触れた内容は、太宰の体験に即したものであることが容易に推察され、かなり暗く屈折した作者自身の自画像ともとれます。但し、かなり強くデフォルメされている部分もあるようで、例えば、弟子として太宰の身近にいた小山清氏によると、太宰自身はこの作品の主人公の画家のように"男めかけ"のような生活を自分自身がすることは許せないという、そうした点では潔癖なタイプだったらしいです。

熱海・起雲閣.bmp この作品の「第二の手記」までが書かれた熱海の「起雲閣」を訪れてみましたが、大正ロマンの香り高い洋風建築で、広大な庭が気持ちよく、こんな環境抜群の処で「自分は生まれた時からの日陰者」とか書いていたのだなあと。〈生きる気力を失った人間の苦悩と虚無―悲劇的人間像〉をしっかりと「造型」するための環境づくりをした上で、執筆にとりかかったような気がします(当時の彼の体調は最悪だったようで、まず体調と気力の立直しを図ったのかも)。

 鋭い感受性ゆえに人の哀しさや偽善、世間の虚構が見えてしまい、そうした人間観察の結果に感応する自意識をさらに対象化している―その際に自らがもつ恥ずべきイヤらしさまでも晒した(ただし「造型」的要素は大いに入る)、その見せ方においてのみ自負心を発揮しているようにも思え、この人はそれだけ自己愛的だったと言えるのかも。

 文芸評論家の多くは、戦前の太宰作品に比べ晩年のものは完成度で落ちると言っていますが、確かにこれが小説と言えるのか?とも思えるこの作品は、作者の死を経て時代を超えた「青春小説」となり、新潮文庫では最多刷数を数えるに至っているわけです。学生時代にあらゆる堕落を経験する男の話でもあり、人が「世間」(=人)と触れたときに感じる疎外感を如実に示してみせた事例でもあり、純粋さゆえに滅び行く男の痛切な叫びでもある―という感じでしょうか。

人間失格 集英社文庫.jpg人間失格 新カバー.jpg【1952年文庫化・1985年・2006年改版[新潮文庫]/1971年再文庫化[講談社文庫]/1973年再文庫化[旺文社文庫]/1987年再文庫化・1989年改編・2007年改版[角川文庫(『人間失格・桜桃』)]/1988年再文庫化[岩波文庫(『人間失格、グッド・バイ 他一篇 』)]/1989年再文庫化[ちくま文庫(『太宰治全集〈9〉』)]/1990年再文庫化[集英社文庫]/2000年再文庫化[小学館文庫(『人間失格 桜桃 グッド・バイ』)]/2000年再文庫化[文春文庫(『斜陽・人間失格・桜桃・走れメロス 外七篇』)]/2009年再文庫化[ぶんか社文庫]】
集英社文庫 (旧カバー/新カバー(イラスト:小畑 健))

2083block_pic.jpg熱海・起雲閣
熱海・起雲閣E5.jpg
《読書MEMO》
●「人間失格」...1948(昭和23)年発表

●新潮文庫2018年プレミアムカバー
新潮文庫 プレミアムカバー 2018.png
  

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This page contains a single entry by wada published on 2006年9月10日 00:29.

【448】 ◎ 太宰 治 『斜陽』 (1950/11 新潮文庫) 《(1947/12 新潮社)》 ★★★★★ was the previous entry in this blog.

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