「●た 高杉 良」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【439】 高杉 良 『会社蘇生』
家庭崩壊を描いた小説っぽい小説。カッコいい主人公ではないが...。
『管理職降格 (新潮文庫)』〔'04年〕/『管理職降格 (集英社文庫)』['89年]/ 『管理職降格 (徳間文庫)』['94年]
『管理職降格』単行本['86年/講談社]
『管理職降格 (文春文庫)』['19年/文春文庫]
本書の主人公は大松屋銀座店という架空のデパート(どうしても松坂屋を想像してしまうが、銀座には松屋もあるし、ここはやはり「架空のデパート」ということなのだろう)の法人外商部の課長ですが、「銀座デパート戦争」の凄まじさを描くとともに、主人公の「家庭の崩壊」をも描いています。
それにしても、会社では大口顧客から取引停止を言い渡され、部下は不正を働き、家庭では中学生の娘は万引きで警察に捕まり、妻は不倫に走って「貞淑な妻だと思っていたんですか」と開き直りで、主人公の心中察するに余りあるといった感じ。
多分、著者の作品の中で最もフィクションの要素が強い部類の作品で、特定できるモデルがいないからこそ、こういった家庭のことまで踏み込んで書けるのでしょう。ほとんど"三重苦"状態と言っていい主人公は、寝ながら小便を漏らすまでに心も体も参っていまいますが、最後は...。
こうした小説っぽい小説を書いてもそれなりの力量は発揮されていますが、ただどうしても"高杉作品"と言えば企業名や実名がすぐに浮かぶモデル小説の方に目がいきがち。
でも、カッコいい主人公や巨魁のような登場人物が多い著者の作品の中では、本作は、かなり情けない状況にまで落ち込みながらも再起を図る主人公への、著者の暖かいまなざしが感じられ、"高杉作品"のまた別の一面を見せてくれた小説でした。
因みに、この作品は'90年にテレビ朝日系列で山崎努主演で単発ドラマ化されていますが、個人的には未見です。
【1989年文庫化[集英社文庫]/1994年再文庫化[徳間文庫]/2004年再文庫化[新潮文庫]/2019年再文庫化[文春文庫]】