【436】 ○ 司馬 遼太郎 『項羽と劉邦 (上・中・下)』 (1980/01 新潮社) ★★★★

「●し 司馬 遼太郎」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒「●し 清水 一行」 【3033】 清水 一行 『小説 兜町(しま)

弱将・劉邦が名将・項羽をなぜ倒すことができたのかという点に読者を引き込む。

項羽と劉邦 (上).png 項羽と劉邦 中巻.jpg 項羽と劉邦 下.jpg  『項羽と劉邦 (上・中・下)bunko.jpg 
単行本(上・中・下)/『項羽と劉邦 (新潮文庫) 上・中・下3巻セット [文庫] by 司馬 遼太郎
『項羽と劉邦 (上・中・下).png 1977(昭和52)年から79(昭和54)年にかけて「小説新潮」に連載された作品で(連載時のタイトルは「漢の風、楚の雨」)、始皇帝亡き後の乱世中国の覇権を争った2人を、その性格や気性を対比させながら描き、農民出身の田舎武将で戦さは負け続けだった劉邦が、連戦連勝でいち早く名将の名を馳せた項羽をどうして最後倒すことが出来たのかというところへ読者の興味を引き込んで、長篇ですが一気に読ませます。

 要するに項羽というのは何もかも自分でやらないと気がすまないし出来る自信もあった。一方の劉邦は、無頼漢あがりの身の程を自分でもよくわきまえていて、作戦を立てるにしても部下の張良などの方が自分より優れていることを知っていたので、彼らの意見をよく聞いたということです。
 論功行賞に最も配慮した劉邦に対し、項羽は戦さに勝ってもすべて手柄は自分のものにしてしまうので、これでは自ずと人材は劉邦の下に集まる―。

 著者のペンネームの由来である「司馬遷」。その彼が残した「史記」に材をとり、しかも得意とする天下取り物語なので、著者の後期作品の中でもその小説の面白さが存分に発揮されたものだと思いますが、主役の2人に限らず張良など多くの人物像が生き生きと描かれている点もポイントかなと思いました。

 「垓下の戦い」が紀元前202年。「三国志」の時代より400年以上も前の話なのに、こうして1人1人の武将のとった行動や選んだ生き方が歴史として残っているというのはスゴいなあと(日本はまだ前期弥生時代ですから)。

 リーダーシップとは何かを描いた物語としてビジネス小説風にも読めてしまいますが、項羽の悲恋物語も京劇になっていたりするわけで(映画「さらば、わが愛/覇王別姫(はおうべっき)」で劇中劇として使われていた)、項羽という人物も虞姫(いわゆる虞美人)とともに中国人に愛されているのでしょう。

 【1984年文庫化・2005年改定[新潮文庫(上・中・下)]】

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1