【432】 ◎ 司馬 遼太郎 『燃えよ剣 (1964/03 ポケット文春) ★★★★★

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義に生きた男の典型を描いた歴史ロマン小説。この小説で近藤勇と土方歳三の人気が逆転した。

ポケット文春 燃えよ剣.jpg燃えよ剣 上.jpg燃えよ剣 下.jpg 燃えよ剣上.jpg燃えよ剣下.jpg 土方 歳三.jpg 土方歳三 
燃えよ剣 (1964年) (ポケット文春)』(1964)/『燃えよ剣 上』『燃えよ剣 下』['73年]/『燃えよ剣〈上〉 (新潮文庫)』『燃えよ剣〈下〉 (新潮文庫)』['72年/'10年新装版
燃えよ剣』(1998)
燃えよ剣 新書.jpg燃えよ剣 新書2.jpg 1962(昭和37)年11月から1964(昭和39)年3月にかけて「週刊文春」に連載された司馬遼太郎の長編小説で、単行本('64年刊行)は当時としてもベストセラーになり、この小説で、新選組における近藤勇と土方歳三の人気が逆転したと言われていますが、こうまで差をつけて描かれたのでは無理もないか。近藤勇なんて、最後はただ大名になりたかっただけの"勘違い人間"のように描かれています。

I燃えよ剣.jpg 作者はほぼ同時期に『竜馬がゆく』('63-'66年)、『国盗り物語』('65-'66年)などのベストセラー小説を世に送り出しており('66年に第14回「菊池寛賞」を受賞)、最も脂の乗り切っていた時期であるとともに、作品内容の世間に与える影響も大きかったのではないでしょうか。

 複雑かつ急変する時代背景をわかりやすく説き、多士済々の新選組メンバーを生き生きと描き、かつ、剣に生き、新選組副長として生涯を全うしようとする土方歳三という人物にしっかりスポットを当てていると思います。テンポが良くて、映画でも観ているような生き生きとした筆致です。

 新選組の描き方について、「幕府を奉じる時代錯誤」が「士道を貫こうとする男気」に、「非人間的とも思える内部粛清の厳しさ」が「最強軍団を作るための合理的な方法論」に置き換えられているのではないかといった批判もあり、それはそれで1つの見方ではあると思いました。 

『燃えよ剣』00.jpg しかしここからは好みの問題になりますが、この作品は、たとえ滅びゆくともあくまでも"義に生きた"男の典型のような人物を描いた、一種のロマン小説と割り切って読んだ方が、充分に楽しめるのではないでしょうか。

 歳三の愛人・お雪が作者の創作の人物であることなどからしても、史実よりエンターテインメント性を重視していることがみてとれます。

 そうならば、この作品に現代の通常の価値基準を何でもかんでも当てはめるのはどうかとも思った次第です。"没頭させられ度"をふり返って星5つにしました。この小説で近藤勇と土方歳三の人気が逆転したというのが納得です。

 【1964年単行本(ポケット文春)・1973年単行本改訂[文芸春秋(上・下)]/1972年文庫化・2010年新装版[新潮文庫(上・下)]/1998年ソフトカバー単行本[文芸春秋(全1巻)]】

《読書MEMO》
●池田屋の変によって明治維新が1年は遅れたといわれるが、おそらく逆だろう。
  この変によってむしろ明治維新が早くきたとみるのが正しい。(著者)
●「池田屋事件」(1864.6.5)...新撰組が尊攘派浪士を襲う
●「蛤御門の変」(禁門の変)(1864.7.19)...長州藩と幕府側が激突
●「油小路の変」(1867.11.18)...伊藤甲子太郎、新撰組に暗殺される
●「鳥羽伏見の戦い」(戊辰戦争)(1868.1.3)

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