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古今の小説をファッション、フード、ホテル、音楽、車など商品情報をから読み解く。
『文学的商品学』 (2004/02 紀伊国屋書店) 文春文庫 ['08年]
「アパレル泣かせの青春小説」「ファッション音痴の風俗小説」というように文学作品を、ファッション、フード、ホテル、音楽、車などの商品情報をから読み解いてみようという試み。
紅葉、鴎外、漱石から村上春樹、江國香織、川上弘美まで比較的馴染みの作家の作品が取り上げられていて、どのような商品が描かれているかということより、それをどのように描いているかということに重きが置かれています。
石原慎太郎、大江健三郎、庄司薫など'50年代から'60年代にかけての、もうどんなふうに書かれていたか忘れたような作品も多く顧みられていて、近年の流行作家も含め、風俗などを丹念に描いていそうで実は何も描いてなかったりとか、一見お洒落っぽくて実は通俗だったりとかがわかり、その意外性が面白かったです。
こうしてみると、やはり谷崎や三島というのは、細かな描写がしっかりしているなあ(時にクドい感じもするけれど)。
「野球小説」や「貧乏小説」という括りになると、「商品学」という観点からは外れるような気もしますが、山際淳司の文章への著者の思い入れを感じられたり、「私小説」として描かれる「貧乏小説」と「プロレタリア文学」の違いがわかったりして、この2章が一番面白かったです。
著者の『妊娠小説』('94年/筑摩書房)以来10年ぶりの"文芸評論"ということですが、確かにその間著者は、アニメ論や女性史、作家論の方へ傾斜していたかもしれないけれど、それらの中にも"文芸評論"的要素はあったし、今回は作家の表現にこだわったということならば、『文章読本さん江』('02年/筑摩書房)もその類でしょう。
せっかく「古今」の小説をとりあげて対比しているのに、「単行本」化に5年かかって(文庫化ならまだしも)、「今」の方の作品すら書店から消えかけているのが少しつらかったです。
【2008年文庫化[文春文庫]】