【425】 ○ 斎藤 美奈子 『文壇アイドル論 (2002/06 岩波書店) ★★★★

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「文壇アイドル」の育成に及ぼす文芸評論や出版ジャーナリズムの力も大きいと感じた。

文壇アイドル論.jpg 『文壇アイドル論』 (2002/06 岩波書店) 文壇アイドル論2.jpg 文春文庫 〔'06年〕

 第1章「文学バブルの風景」で村上春樹、俵万智、吉本ばなな、第2章「オンナの時代の選択」で林真理子、上野千鶴子、第3章「知と教養のコンビニ化」で立花隆、村上龍、田中康夫の計8人をとり上げ、彼らが80年代から90年代を中心にいかにしてマスコミの寵児となったか、「アイドルのアイドルたるゆえん」を、読者、ジャーナリズムを含めた視座から探っています。

 村上春樹、俵万智、吉本ばななを共通項で捉え、林真理子と上野千鶴子、立花隆と村上龍はそれぞれ対立項で捉えている感じがしました(林真理子と上野千鶴子は例の「アグネス論争」で対立した)。
 また村上春樹のところでは村上龍との「両村上比較論」についても触れていますが、著者自身はこの比較論がある種のフィクションであるとしていて、本書が「作家論」と言うより《「作家論」論》に近いものであることが最もよく出ている部分です。 
 そして田中康夫について著者はどうかと見ているかというと、それまで取り上げた作家とはちょっと違うようで...。

 「アイドル」たちのデビュー当時の彼らに対する評論がよく整理・分析されています。 
 書き手は読者あってなんぼのものでしょうけれど、「アイドル」の育成に文芸評論の力も大きいと感じました。 
 大御所が気恥ずかしくなるような大仰な"洞察"でヨイショしているのもあれば、思考停止状態のミーハーに過ぎなくなっているものもあります。 
 むしろ彼らはその時、自分で考えているつもりでも意識せず時代のムードに流されていたのかも知れない。 
 一方で著者は、中堅評論家などの、当時それほど注目されなかった冷静な(主に批判的で現在の彼らの作品にも通ずる)指摘も丹念に拾っています。

 まあ、「アイドル」という言葉は本書では揶揄を込めて用いられているのだろうけれど、樋口一葉だって、中間クラスの批評家をすっ飛ばしていきなり森鴎外などの大御所から高い評価を得て文壇デビューしたわけで、大物作家・評論家の評価が「実力派スター」を育てていることも明治以来の変わらぬ事実でないだろうか。
 ただし現況においては、出版ジャーナリズムは、地味な実力派よりは、読者アイドル足りうる書き手を求めているのだろうなあと思った次第。

 【2006年文庫化[文春文庫]】
 
《読書MEMO》
●村上春樹...「ハルキ・クエスト」
●俵万智...「Jポエム」
●吉本ばなな...「コバルト文庫」
●林真理子...「スゴロク=階層移動」
●上野千鶴子...フェニミズムではなくウーマンリブ
●立花隆...テーマは「人間の臨界点」、知のコンビニ化
●村上龍...「人を少しバカにさせる力」
●田中康夫...評価すべき「記録文学」の書き手

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This page contains a single entry by wada published on 2006年9月 9日 18:38.

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