「●い 五木 寛之」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1514】 五木 寛之 『人間の覚悟』
「さらばモスクワ愚連隊」など懐かしい'60年代作品を所収。
『五木寛之ブックマガジン〈夏号〉』〔'05年〕『さらばモスクワ愚連隊 (1967年)』『さらばモスクワ愚連隊 (講談社文庫)』『さらばモスクワ愚連隊 (新潮文庫)』『さらばモスクワ愚連隊 【五木寛之ノベリスク】』
'60年代の作品を特集で掲載していて、久しぶりに読み返しましたが、いやぁ、懐かしい。と言っても、過去にそれらを読んだ時点でもリアルタイムではなかったのですが...。
モスクワでの体験に基づくという「さらばモスクワ愚連隊」('66年4月初出)が、やはり一番いいと思いました。作者自身のカルチャーショックのようなものが、作品の中にまだ余熱として残っている感じがし、その熱っぽさとそれを支えるテンポの良さを感じます。1966(昭和41)年・第6回「小説現代新人賞」受賞作で、直木賞候補にもなりましたが、選考委員会では、作者の初めて候補に上がった作品だったので次作を待とうということだったようです(結局、次回に「蒼ざめた馬を見よ」で受賞しているが、「さらばモスクワ愚連隊」の方が出来が良かったのでは。評価★★★★☆)。
「ソフィアの秋」('68年9月初出)は、美術史を学ぶ学生が、古イコン(聖像画)を求めて友人とブルガリアに旅する話で、これも、作者がソフィア、プラハへと旅行し、帰国後まもなく発表した作品。主人公は首都ソフィア近郊の村でイコンを手に入れるが、バルカン山脈を越える際に吹雪に遭い、暖をとるために手に入れたイコンを燃やしてしまうという筋書きですが(雑誌発表時のタイトルは「聖者昇天」 )、イコンについての薀蓄が語られる一方で、結構コミカルな話だったということに気づきました(この"軽さ"も、ある意味、作者の特徴か。評価★★★★)。
「海を見ていたジョニー」('67年2月初出)は、黒人少年兵でジャズピアニストでもあるジョニーが、ベトナム戦争で精神を病み、もはや自分にジャズを演奏する資格はないと悩み、最後は海辺で自殺するという短編小説で(評価★★★★)、本誌同録の「GIブルース」('66年9月初出、『さらばモスクワ愚連隊』収録)なども同じようにリアルタイムでのベトナム戦争を感じることができる反戦小説であると言えます(単行本及び文庫本『海を見ていたジョニー』の同録作品は、「素敵な脅迫者の肖像」「盗作狩り」「CM稼業」などだった)。
「CM稼業」などと同じく"業界もの"に属する「第三演出室」('68年)には、まるで平成不況の世相を反映したかのような「リストラ部屋」が出てきます。
今読み返すと、紋切り型の登場人物やご都合主義的なストーリー展開も多い気がしますが、最初からエンターテインメントとして書いいて、その姿勢は今も変わらないと後書きに作者自身が書いています。
「青春の門〈筑豊編〉」('69年)なども連載第1弾として載せています。鈴木いずみ(作家・'86年縊死)が「内灘夫人」に寄せて書いたものや、色川武大(=阿佐田哲也)が五木寛之氏の雀風について書いたものなどもあり、時の流れを感じます。書き下ろしエッセイもあり、盛りだくさんでワンコイン(500円)はお買い得でした。
『さらばモスクワ愚連隊』...【1967年単行本[講談社]/1971年五木寛之小説全集〈第1巻〉[講談社]/1975年文庫化[講談社文庫]/1979年再文庫化[角川文庫]/1982年再文庫化[新潮文庫]】
『ソフィアの秋』...【1969年単行本[講談社(『ソフィアの秋―五木寛之海外小説集』)]/1972年文庫化[講談社文庫]/1973年五木寛之作品集〈第5巻〉[文藝春秋]/1980年再文庫化[新潮文庫]】
『五木寛之作品集 (5) ソフィアの秋 (1973年)』
『海を見ていたジョニー』...【1967年単行本[講談社]/1973年五木寛之作品集〈第2巻〉[文藝春秋]/1974年文庫化[講談社文庫]/1981年再文庫化[新潮文庫]】