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さらっと読めてしかも役に立つが、真似だけしてもサマにならないものもある。
『男の作法』新潮文庫
『男の作法』(1981/04 ゴマブックス)
池波正太郎(1920‐1990)が「男を磨く」ということについて50代の終わりに語り下ろしたもので、ゴマブックスの初版は'81(昭和56)年と随分昔ですが、文庫化されロングセラーとなっています。
書かれていることは、かつては「男の常識」であったことばかりだけれども、"現代"の男たちには実行不可能だろうと、既に新書本の前書きに書いていますが、今でも役立つ部分は多いと思います。ただし、池波正太郎クラスだからそうしたことが自然に出来るのであって、真似しようと思ってもできない、あるいは単に真似だけしても様にならない、というものも多いことは確かです。
鮨やそばの食べ方、ビールの飲み方など食事のマナーについて書かれた部分が印象に残っていましたが、読み返してみて、スーツ、和服、帽子、時計などの身につけるものにもかなりこだわりがあったのだなあと思いました。どうしてそうすることが良いのかしっかりと理由が書かれていて、かつ全体に押しつけがましさがなく、さらっと読める点がいいです。
更には、家庭生活や仕事の仕方、男女のことから生き方全般まで、幅広いテーマをとりあげていたことに、改めて気づきました。共通して理解できたことは、他人の気持ちを慮ることができなければダメだということで、マナーもその発露に過ぎないということでした。
今の世にも、『おとなのOFF』のような中高年向け雑誌を含め、「男を演出する」ためのマニュアル」的雑誌などはありますが、どこまでこうした粋人の精神領域に至っているのか、かなり疑わしいと思われます(あまりその手の雑誌を読まないから分からないのですが)。
【1997年愛蔵版〔ごま書房〕/1984年文庫化[新潮文庫(『男の作法』)]】
《読書MEMO》
●ちゃんとした鮨屋は"通"ぶる客を軽蔑する
●そばは、二口、三口かんでからのどに入れるのが一番うまい
●唐辛子は、そばそのものの上に振っておく
●てんぷらは、親の敵にでも会ったように、揚げるそばからかぶりつく
●わさびは、醤油に溶かさずに、刺身の上に乗せる
●いい肉を使うか、安い肉を使うかで、すきやきの作り方は違ってくる
●肉を四、五枚食べるごとに、割下をかえるのが、ぜいたくなすきやきの食べ方
●おこうで酒を飲みながら、焼き上がりをゆっくり待つのがうなぎのうまい食べ方
●ビールを注ぎ足すのは、具の骨頂
●冷たいビールには、熱い唐揚げのじゃがいもがいい