【405】 ○ 池波 正太郎 『剣客商売 辻斬り (1973/05 新潮社) ★★★★

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粋だけれども枯れてはいないスーパー老人・秋山小兵衛60歳。

辻斬り.jpg 剣客商売(1) 藤田まこと.jpg 池波正太郎.jpg
辻斬り―剣客商売』 新潮文庫〔旧版〕/ドラマ「剣客商売」/池波正太郎(1923‐1990/享年67)

剣客商売辻斬り』['73年]
『剣客商売 辻斬り.jpg 「鬼平犯科帳」や「仕掛人・藤枝梅安」と並ぶ池波正太郎(1920‐1990)の代表作『剣客商売』は、秋山小兵衛(こへい)、大治郎の剣客親子が中心のシリーズものですが、シリーズ全部で1800万部ぐらい売れているというからやはりスゴいことです。

 主人公の秋山小兵衛は60歳で、すでに息子の大治郎に跡を譲り、40歳も年下のおはるを後添えに悠々自適の隠居生活を送りながら、ほとんど暇つぶしと好奇心からいろいろな事件に首を突っ込んでいくというストーリー構成です。

 本書『辻斬り』はシリーズ第2弾で、「鬼熊酒屋」「辻斬り」「老虎」「悪い虫」「三冬の乳房」「妖怪・小雨坊」「不二楼・蘭の間」の7篇を収めていますが、主要登場人物のお披露目も終わってすっかり安定した筆致で、剣豪小説でありながら、江戸下町の情緒(小兵衛は鐘ヶ淵に住み、大治郎は隅田川を挟んで真崎稲荷明神社近くに剣術道場を開いている)や食文化の蘊蓄(当初は肉体労働者しか口にしなかった鰻が、独特の調理法を得て「鰻料理」として流行り始めたのがこの頃だったとか)も楽しめます。

 ガンコ親父の人情を描いた「鬼熊酒屋」、10日で強くしてくれと言う男の話「悪い虫」など、派手な斬り合いの無い話にも味や深みがありますが、「辻斬り」などではしっかり立ち回りしていて、まさに「スーパー老人」ぶり。
 まあ今で言えば"60歳"はまだまだ壮年のうちだが、当江戸時代での60歳と言えばやはり"老人"ということになるでしょう。シリーズ執筆開始時50代前半だった作者の、ある種の理想像なのかも。

「剣客商売 誘拐」.jpg 秋山小兵衛は歌舞伎役者でテレビの「鬼平犯科帳」にも時々出ていた2代目中村又五郎(1914-2009/94歳没)をイメージしたらしいですが、昔のテレビ版の山形勲(1915-1996)の方が最近の藤田まこと(1933-2010/76歳没)よりイメージ的には「粋」の部分で近かったかも(CX系では、加藤剛(1938-2018/80歳没)、山形勲コンビの「剣客商売」(70年代)と藤田まことの「剣客商売」(90年代以降)の間に、加藤剛、中村又五郎コンビの「剣客商売」(80年代)も単発で2度作られており、1つがこの「辻斬り」で('82年12月放映)、もう1つが「誘拐(かどわかし)」('83年3月放映))。

「剣客商売 (かどわかし)」(1983)中村又五郎/加藤剛

剣客商売dvd.jpg ただ、やはり5シーズンに渡って秋山小兵衛を演じた藤田まことのイメージはかなり根強いし、昔のテレビ・シリーズは、加藤剛が演じた息子・大治郎の方が主役になってしまっていますが、原作を読む限り、それはないよ、という感じがします。

 作者はこの『剣客商売』で、「粋」だけれども「枯れ」てはいない老人パワーみたいなものを描きたかったのではないかと思われ、やはり秋山小兵衛をメインに据えるべきだろうと思います(その意味では、藤田まこと版は原作に沿った"正統派"とも言えるか)。
 

「剣客商売」藤田まこと/渡部篤郎
剣客商売第1シリーズ 藤田.jpg剣客商売藤田まこと/渡部篤郎.jpg「剣客商売(1)」●演出:富永卓二/蔵原惟繕/小野田喜幹/酒井信行●制作:河合徹/武田功/佐生哲雄●脚本:古田求/野上龍雄/井手雅人●音楽:篠原敬介●原作:池波正太郎「剣客商売」●出演:藤田まこと/渡部篤郎/大路恵美/三浦浩一/平幹二朗/小林綾子/梶芽衣子/竜雷太●放映:1998/10~12(全10回)●放送局:フジテレビ  ※「剣客商売(2)」1999/12~2003/03(全11回)/「剣客商売(3)」2001/06~07(全5回)/「剣客商売(4)」2003/01~05(全11回)/「剣客商売(5)」2004/02~03(全7回)《全44回》

剣客商売 第1シリーズ《第1・2話収録》 [DVD]

 【1985年文庫化・2002年新装版[新潮文庫]】

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