【401】 ○ 芥川 龍之介 『蜘蛛の糸・杜子春 (1968/11 新潮文庫) ★★★★

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「年少文学」と言われる作品群だが、「杜子春」などのラストは秀逸。「蜜柑」も印象に残った。

i蜘蛛の糸・杜子春.jpg蜘蛛の糸・杜子春.jpg    蜘蛛の糸・杜子春2.jpg
蜘蛛の糸・杜子春』 新潮文庫〔旧版〕 新潮文庫〔新版〕(カバー・南伸坊)

 1918(大正7)年に発表された芥川龍之介(1892-1927)のはじめての児童文学作品「蜘蛛の糸」をはじめ、「魔術」「杜子春」「トロッコ」など、所謂 「年少文学」と言われている作品10篇が、発表順に収められています。

蜘蛛の糸  アイ文庫オーディオブック.jpg 「蜘蛛の糸」はあまりに有名なストーリーで、小松左京のショートショート(「蜘蛛の糸」―『鏡の中の世界』('78年/角川文庫)所収)やアクションアドベンチャーゲーム「ゼルダの伝説スカイウォードソード」(2011)にパロディもあるぐらい、一方「杜子春」は、読み直してみて改めてラストの仙人の粋な計らいが良く、少年の好奇心と恐怖体験を描いた「トロッコ」も、白い犬があることをきっかけに"黒い犬"になってしまうことにより経験する不条理を描いた「白」も、テーマは別だけれども同じようにラストがいいです。 何かこう「うまい」だけではなく、ほんわりさせられたり、結構深いものがあったりで、短篇小説はやはりラストが決め手になることが多いなあと。
[オーディオブックCD] 芥川龍之介 著 「蜘蛛の糸」「鼻」「蜜柑」(CD1枚)

魔術 パンローリング.jpg 教科書で読んだ記憶はありますが〈国語〉ではなく〈道徳〉の教科書でだったような気もする魔術などのように、道徳的・倫理的とも言える寓意が込められているものが結構あり、童話の要諦を押えているという感じですが、話のネタ元の豊富さとその加工においても随一でしょう。
[オーディオブックCD] 芥川龍之介 01「魔術」 (<CD>)
 芥川は当初作家ではなく文学者になるつもりだったらしく、西洋文学を完全に自分のものとして消化した最初の作家と言われていますが、それでいて中国や日本の古典からも多くを引いていて、未だどこから持ってきのか、ネタ元がよくわからないものもあるそうです。                  

蜜柑.jpg たった数ページの掌編「蜜柑」は、こうした寓話的作品群のなかで少し異色で、すごく印象に残りました(ラストが決め手という点では、他の作品に通じるものがあるが)。
 偶然、汽車に同乗した薄汚い少女が、汽車がトンネルに差し掛かっているのに必死で窓を開けようとするので、主人公はイラつくが、しかし最後は、その理由がわかり―。
 芥川の実体験らしいですが、プロレタリア文学の影響もあるのでしょうか。ヒューマン・タッチですが、最後に持つ者と持たざる者の立場が逆転しているようにもとれました。

アイ文庫オーディオブック「蜜柑」

 芥川の短篇のいくつかは、現在"オーディオブック"として刊行されているので、通勤途中にiPodなどで聴くのもオツかも。

魔術.jpg 【1968年再文庫化[新潮文庫]/1990年再文庫化[岩波文庫(『蜘蛛の糸・杜子春・トロッコ 他十七篇』)]/1997年再文庫化[中公文庫(『羅生門 蜘蛛の糸 杜子春 外十八篇』)]/2005年再文庫化[ポプラポケット文庫(『蜘蛛の糸』)]/2011年再文庫化[280円文庫(ハルキ文庫)(『蜘蛛の糸』)]】

《読書MEMO》
●「蜘蛛の糸」...1918(大正7)年発表
●「犬と笛」「蜜柑」...1919(大正8)年発表
●「魔術」「杜子春」...1920(大正9)年発表
●「トロッコ」「仙人」...1922(大正11)年発表
●「白」...1923(大正12)年発表

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This page contains a single entry by wada published on 2006年9月 3日 00:01.

【400】 ◎ 山田 規畝子 『壊れた脳 生存する知』 (2004/02 講談社) ★★★★☆ was the previous entry in this blog.

【402】 △ 芥川 龍之介 『侏儒の言葉』 (1932/08 岩波文庫) 《(1927/09 文藝春秋社)》 ★★★ is the next entry in this blog.

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