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「対決する文化」と「対決を避ける文化」の違いが現れる終末医療。
『よく死ぬことは、よく生きることだ』 〔'87年〕 『よく死ぬことは、よく生きることだ (文春文庫)』 〔'90年〕
著者は1981年に乳ガンの手術をし、'83年にニューヨークへ転居、'87年にガンにより亡くなっていますが、その間ジャーナリストとして日米の働く男女の生き方の違いなどを取材し本にする一方で、精力的に自己の闘病の模様を雑誌等に連載し、この本は闘病記としては4冊目ぐらいにあたるのでしょうか、最後に書かれた『「死への準備」日記』('87年/朝日新聞社)の1つ前のもの、と言った方が、書かれた時の状況が把握し易いかも知れません。
著者が亡くなる'78年7月の前年10月に上智大学に招かれて行った「死への準備」という講演と、3度目のガン再発後の闘病の記録を中心にまとめられ、亡くなる年の4月に出版されていますが、自身の病状や心境についての冷静なルポルタージュとなっています。
特に前半は、現地のホスピス訪問の記録を中心に纏められていて、まるでO・ヘンリーの小説のような、或いは映画にでもなりそうな感動的なエピソードも盛り込まれていますが、あくまでもジャーナリストとしての視線で書かれているのが良くて、一方で、米国の終末医療全般の状況報告と日本の患者や医療への提言も多く、また、最近言われる「患者力」(何でも"力"をつければいいとは思いませんが)の先駆的な実践の記録としても読めます。
病状について説明を求めるのはある意味「患者の責任」であり、ホスピスで周囲の人が死んでいくのを見ることは患者にとっての「死への準備」教育となる、という米国の医療のベースにある「対決する文化」と、患者は医師に従順で、医師は告知をためらいがちな「対決を避ける」日本の文化の違いがよくわかり、ジャーナリストとしての姿勢を貫き通した一女性の、稀有なルポルタージュだと思います。
【1990年文庫化[中公文庫]】