【394】 ◎ 磯部 潮 『発達障害かもしれない―見た目は普通の、ちょっと変わった子』 (2005/04 光文社新書) ★★★★☆

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新書という体裁に沿った、軽度発達障害のわかりよい入門・啓蒙書。

磯部 潮 『発達障害かもしれない』 (2).JPG発達障害かもしれない.jpg
発達障害かもしれない 見た目は普通の、ちょっと変わった子 (光文社新書)』 〔'05年〕 

 本書は、主に高機能自閉症、アスペルガー症候群という軽度発達障害を世の中に広く知ってもらうことを目的とした本ですが、概念の説明、症状、LD(学習障害)やADHD(注意欠陥多動性障害)との違い、それらのケースの紹介と対応する治療をわかりやすく示しています。

 著者自身はLD、ADHDを"発達障害"の定義に含めるべきではない(もちろん、自閉症、高機能自閉症、アスペルガー症候群を指す"自閉症スペクトラム"には含まない)という近年の研究動向に沿った考え方ですが、LD、ADHDも高機能群に重複することがあるために敢えて本書で取り上げていて、それは、もし高機能群であればそれに沿った療育が不可欠で、そのことがまたLD、ADHDにも良い影響を与えると言う考えに基づくものです。

 外から見えない障害である自閉症スペクトラムは、実際にそうした人に関わらないとわかりにくいものだとエピローグで述べていますが、後半部分の高機能自閉症、アスペルガー症候群、LD、ADHDのそれぞれのケーススタディは、年齢的な経過を追って書かれていて、親からはどう見えたか、どういったことで苦労したかなども添えられていてわかりやすく、また、症状が固定的なものでなく適切な対応や療育によって改善されていくことを示しています。

 "社会性の障害"である自閉症スペクトラムへの対応の仕方を丁寧にアドバイスしていて、一方で、いじめや被害妄想が早期療育の効果を損なうこともあるとも指摘しており、自閉症スペクトラムの人たちの障害が早期に認識され、できるだけ早期に療育され、将来健常者に近いかたちで社会参画できることを期待する著者の気持ちが伝わってくる内容です。
 
 同じ光文社新書の前著『人格障害かもしれない』('03年)では、芸術家などの症例への当て込みにやや恣意的ではないかと思われるものを感じましたが、本書は直近の研究成果と著者の臨床経験をベースにしたバランスのとれた内容で、多くの人に触れる機会の多い「新書」という体裁にも沿った、適切なレベルの入門書であり啓蒙書であると思います。

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