【387】 ◎ 熊谷 高幸 『自閉症からのメッセージ (1993/11講談社現代新書) ★★★★☆

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認知心理学の視点からみた自閉症入門書。

自閉症からのメッセージ2.jpg 自閉症からのメッセージ.jpg     rain man.jpg Kim Peek/Dustin Hoffman
自閉症からのメッセージ (講談社現代新書)』〔'93年〕 
自閉症からのメッセージ2891.JPG 少し以前に書かれた本ですが、一般向けの自閉症入門書としては読みやすい内容だと思います。映画「レインマン」('88年/米)で、ダスティン・ホフマン演じるところの自閉症者レイモンドが、ばら撒かれたつま楊枝の数を一瞬にして言い当てた場面などを引き(この映画は、キム・ピ-ク氏という実在の自閉症者に取材して作られている)、自閉症の「優れた空間認識や記憶力」に注目していますが、こうした特徴は自閉症のすべてに現れるわけではないのでやや誤解を招く恐れもあります。 

 しかし、その行動・言語・記憶・時間・感情について"謎"を問いかけ、認知心理学の視点から実験結果などを踏まえ考察していく過程は、自閉症を通して「私」とは何かというテーマを浮き彫りにする帰結に至るまで、一般読者の知的関心をひくかと思います。本書出版当時のことを考えると、自閉症に対する認知度を高める効用はあったと思います。

 療育に携わる立場にいる人でも、「オウム返し」や「カレンダー・ボーイ」といった特徴に対し不思議な思いは抱くし、「選択肢が立てられない」「今日学校で何をしたかという問いに答えるのが苦手」「パニックが終わったら意外とケロリとしている」といった特徴について、何故だろうと思うことがあるのではと思います。

 著者の謎解きに全面的に賛同するかはともかく、自閉症をより深く理解し、教育的アプローチの手立てとするのに役立つ本です。

RAIN MAN film.jpgRAIN MAN (1988)s.jpg「レインマン」●原題:RAIN MAN●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督:バリー・レヴィンソン●撮影:ジョン・シール●音楽:ハンス・ジマー●原作・脚本:バリー・モロー●時間:133分●出演:ダスティン・ホフマン/トム・クルーズ/バレリア・ゴリノ/ジェリー・モルデン/ジャック・ マードック/マイケル・D・ロバーツ/ボニー・ハント●日本公開:1989/02●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:新宿グランドヲデオン座(89-04-15) (評価★★★★)


《読書MEMO》
●『レインマン』で自閉症者レイモンドがばら撒かれたつま楊枝の数を一瞬にして言い当てた場面(19p)
●『レインマン』の企画にダスティン・ホフマンが強い挑戦意欲を持ったのは、「自閉症者は火星人のようなものだから理解できるとは思わないほうがいい」と心理学者に言われて(64p)。
●選択肢が立てられない、今日学校で何をしたかという問いに答えるのが苦手(64p)
●パニックが終わると意外とケロリとしている(211p)
●私たちは、時間を一次元的な軸の上を進むものとして解釈している。過去の出来事は時がたてばたつほど遠いセピア色の世界となっていく。だからこそ、自分にとっては時間の果てにあると感じられる誕生日の曜日を、息子にぴったりと当てられた母親は「怖いような」「気持ちの悪いような」気分になるわけである。しかし、自閉症者は、私たちがイメージしているような時間軸というものをはたして意識しているのだろうか。M君とN君は、カレンダーを記憶する方法は少し違っていた。しかし両名とも、カレンダーという二次元空間の上を移動しながら指定された日付の曜日を探しに当てていた、という点では共通している。つまり、彼らは地図を見ていたのであり、二次元的なパターンを操作していたのだということができる。

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